ビューティフル アイランズ

2010/05/24 映画美学校試写室
地球温暖化で存亡の危機にさらされる3つの島の物語。
滅びゆく島々の幻想的で美しい風景。by K. Hattori

Beautifulislands  地球温暖化による海面上昇や気象変動によって、大きな影響を受けている3つの島を取材したドキュメンタリー映画。取り上げられているのは、海面上昇の影響で50年以内に人間が住めなくなると言われている南太平洋の島国ツバル。毎年冬から春にかけて、高潮の影響で観光名所のサンマルコ広場が水没するイタリアのベネチア。永久凍土が解けてゆるくなった土地に打ち寄せる波の影響で、多くの家屋が海に飲み込まれたアラスカのシシマレフ。どこも地球温暖化の影響としてマスコミで大きく取り上げられることの多い場所だが、この映画はそうした土地で暮らす人々の生活を描くことで、温暖化は単なる抽象的な議論ではなく人々の「命」に関わる問題なのだと言うことを浮かび上がらせていく。気候変動によって人々の暮らしが奪われ、文化が奪われ、命が奪われ、長い年月にわたって培われてきたアイデンティティーが奪われていく。

 映画はオムニバス形式になっているわけではないが、ツバル篇、ベネチア篇、シシマレフ篇に分かれ、シシマレフが終わると最後にまたツバルに戻ってくる構成になっている。最初に南の島の楽園のような暮らしを見せ、古い歴史を感じさせる文明が海に没していく様子を見せ、最後に海が土地そのものを根こそぎ飲み込んでいく様子を紹介した後、楽園のような南の島もまた少しずつ海に沈んでいることを描くという循環型の構成になっている。

 ドキュメンタリー映画としては語り口がゆったりしていて、雰囲気としては「音楽のない名曲アルバム」みたいな感じ。カメラを固定してワンカットを長く取り、映画を観る人たちにもそれぞれの場所の空気感まで感じさせるような丁寧な絵作り。BGMはないし、説明用のナレーションや字幕もほとんど入っていない。いわゆる「ドキュメンタリー風」の映像とはかけ離れたタッチだ。しかし説明がほとんどないので、わかりにくいのは事実。あらかじめこうした問題に興味を持っている人たちが、ある程度の予備知識を持った上で観ないと、映画の中で何が起きているのかはよくわからないかもしれない。

 映画の撮り方も相まって、「海に沈んでゆく島」や「海に飲み込まれてゆく街」が幻想的に美しく見えてしまうのは皮肉なことかもしれない。恐さや恐ろしさ、経済的なダメージ、暮らしの困難さ、将来的に完全に海に飲み込まれて居住不可能になってしまうであろう暗い未来より、風景としての美しさが際立ってしまっているのだ。水に覆われたベネチアは観光客の姿も消えて、街全体が厳島神社(広島県)か浮御堂(滋賀県)のような神秘的で荘厳な姿に変貌する。「街が沈んでしまう。大変だ!」と思うより、「これはこれでイイんじゃね?」「結構イケてるじゃん!」と思ってしまう。作り手の意図はまったく別のところにあったと思うのだが、映画というのは作り手の意図を越えて機能を発揮してしまうことがあるのだ。

7月10日公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:ゴー・シネマ 宣伝:アルシネテラン
2009年|1時間46分|日本|カラー|ヴィスタ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.beautiful-i.tv/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ビューティフルアイランズ
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