怪談 新耳袋 怪奇

ツキモノ ノゾミ

2010/06/09 映画美学校試写室
ひとりの主演女優で2本立て興行というホラー・オムニバス映画。
1本目の「ツキモノ」の方が面白い。by K. Hattori

Kaidannshinmimibukuro  BS TBSで2003年から制作放送されている、人気ホラーシリーズの劇場版最新作。劇場1作目は8話の短編で構成されたオムニバスだったが、2作目と3作目が長編化。しかし今回は1本の映画が2本の短編(各1時間弱だから中編と呼ぶべきかも)で構成された、オムニバス形式に戻ってきた。主演は人気アイドルの真野恵里菜。監督は『東京島』の公開が控えている篠崎誠。主演女優が同じでも、話に特につながりはない独立した2本の映画のジョイントだ。監督と脚本家は「はじめに主演女優ありき」というこの企画に挑むにあたって、2本の作品に連続性を持たせることも考えたようだが、最終的にはあえてつなげず別々の作品にすることを選択したようだ。これによって物語には「演じられたもの」という刻印が押されて、観客に対して一種の解毒剤の役目を果たすことになる。

 1本目の「ツキモノ」は、大学に通うバスの中でたまたま具合の悪そうな女性に声をかけたヒロインが、恐ろしい恐怖を大学内に引き込んでしまうというアクションとサスペンスたっぷりの作品。2本目の「ノゾミ」は、子供時代に妹を目の前で事故死させてしまった女子高生が、小さな女の子の幽霊に付きまとわれるという心理的なホラー。話の方向性もテイストもまったく異なるので、どちらが好きかは趣味の分かれそうなところではありそうだが、僕は1本目の方が面白かった。「ノゾミ」はホラーの形は取っているが、中身はアン・ハサウェイの『レイチェルの結婚』と同じなのだ。過去の心の傷があり、それと否応なしにヒロインが向き合い、最後は傷を乗り越えてヒロインは家族と和解する。でも心の傷は、やはりその後も疼き続けるであろう……という余韻のエンディング。物語の定型として、きちんと整った形になっている。しかし「ツキモノ」はそれとは違う、物語としてはまったく破綻した世界だ。しかし僕はこの破綻に、現代人の恐怖がリアルに描かれているように思う。

 「ツキモノ」の面白さは、現代の日本人、特に若者たちが、他人と交際する上で互いの距離感をはかりかねている実態がリアルに描かれていることにある。ここでは人間関係にオンとオフしかない。仲間同士は互いにベタベタと依存し合い(オン)、仲間以外の人間は徹底的に排除(オフ)しようとする。ヒロインの前に現れる怪物は、自分に声をかけてきたヒロインに対して「背負う気あるの?」と尋ねるわけだが、これもまたオンとオフの二分法の問いだろう。関わり合いたくなければ「見ざる、聞かざる、言わざる」を通さねばならない。少しでも関わるのなら、相手の持つ一切合切を引き受けて背負わねばならない。それができないのは「偽善者」だ。

 電車やバスの中で目の前に老人や妊婦が立っていても、席を譲らない人たちが多い。彼らにとって席を譲るのは「偽善」に見えるのかもしれない。偽善者にならないためには、「見ざる、聞かざる、言わざる」だ。「ツキモノ」に登場する怪物は、そんな心の中から現れるのだ。

9月公開予定 シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー
配給:キングレコード 宣伝:る・ひまわり
2010年|1時間55分|日本|カラー|ビスタサイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.actcine.com/sinmimi/kaiki.html
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:怪談 新耳袋 怪奇
関連DVD:怪談 新耳袋シリーズ
「ツキモノ」原作:隣之怪 病の間
原作:新耳袋―現代百物語シリーズ
関連DVD:篠崎誠監督
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