韓国で一番有名な海水浴場と言えば、それは釜山のヘウンデ(海雲台)だ。美しい海岸線は韓国八景に数えられ、高級ホテルが建ち並ぶこの地には、毎年夏になると国内外から多くの観光客が訪れる。だがもしもこの海岸に、高さ100メートルにも達する巨大津波が押し寄せてきたら……。そんな単純な発想から生まれた韓国製のディザスタームービー。津波の到来をクライマックスに、そこに至る複数の人々の人生模様を同時進行で描くグランドホテル形式の映画になっている。同系統の映画としては、ハリウッド映画『ディープ・インパクト』があった。これもクライマックスは大津波(原因は海底地震ではなく隕石の落下だった)。『ディープ・インパクト』が作られた1998年と現在との違いは、現在の我々が2004年のスマトラ島沖地震とそれによって起きた大規模な津波被害を知っている点にある。スマトラ島沖地震で起きた津波によって、20万人以上の人が命を奪われた。津波が海岸沿いのリゾートや街を襲う生々しい映像は世界中に配信され、海の水が巨大な固まりとなって海岸線のありとあらゆるものをなぎ倒し、押し流して行く迫力には驚かされた。
こうした現実が一方にあるのだから、「同じような津波が○○を襲ったら……」という発想の映画が作られるのはわかる。それは2004年の津波のニュース映像をテレビで見た人たちの多くが、頭の中でイメージしたものでもあったはずだ。「この津波が我が家を襲ったら」「この街が東京を襲ったら」「この街が江ノ島を襲ったら」など、誰もが考えたであろう津波の被害。本作『TSUNAMI ツナミ』はそれを具体的な映画の中で実現させた、ひとつのシミュレーションでもある。だが僕はこの映画に、だいぶ不満を感じてしまうの。それはこの映画が津波襲来のシミュレーションとしても、津波を前に右往左往する人間たちのドラマとしても、いまひとつ細部の詰めが甘いように思えるからだ。その欠点を一言で言うなら「大ざっぱすぎる」ということに尽きる。スマトラ島沖地震で東南アジア各地を襲った津波の高さは、ほとんどの場合数メートル程度だった。それでも20万人の被害が出た。しかしこの映画では、街を襲う津波の高さが100メートル。海辺の高層ホテルを屋上までスッポリ覆い隠してしまうのだ。こうなると話は途端に荒唐無稽になって、映画を観ていても白けてしまう。
物事にはほどよいサイズというものがあるのだ。「巨大○○」といったって、大きければ大きいほどいいというものでもない。高さ100メートルの津波なんてギネスブックに挑戦する巨大太巻きやハンバーガーみたいなもので、実用的な用途よりも大きさだけを目的にしたものになっている。街の人々をすべて飲み込み、建物を破壊するのに足りる津波の高さなんて、おそらく10メートルか20メートルもあれば十分なのではないだろうか。
(原題:Haeundae)
DVD:TSUNAMI ツナミ
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