ANPO

2010/07/26 TCC試写室
芸術家たちは1960年安保闘争をどのように戦ったか。
ここに日本戦後史と現代日本が見える。by K. Hattori

Anpo  現在50歳以下の日本人にとって、日米安保条約というのは気がつけば既に存在するものだった。それがいいとか悪いとか、日本にとって必要なのか不要なのかなど、特に真剣に考えることもない。日米安保によって様々な不都合があるにせよ、それがなくなってしまうとちょっと寂しいし不安な気持ちもする。そうした曖昧さの上に、現在の沖縄米軍基地の問題などがあるのだろう。沖縄基地の移転を巡って今年起きた民主党政権の迷走劇は、政権政党のトップですら、日米安保問題を真面目に真剣に考えてこなかったという日本の現実を世に知らしめた。しかしそんな日米安保に対して、日本人全体が大まじめに考え、意見を述べ、行動した時代があった。それが1959年から60年にかけての安保闘争(60年安保)だ。

 1945年、日本が戦争に負けると米軍が占領軍(進駐軍)としてやって来た。これが現在も続く日米関係の、直接の始まりと言える。占領軍は日本国内の軍港や軍用飛行場を接収し、必要に応じて新たな軍施設を作ることもあった。米軍統治下の日本は、それに対して一言も文句を言うことはできなかった。日本に主権などなかったからだ。しかし1951年のサンフランシスコ講和条約によって、翌年4月には日本の主権が回復した。だがこの講和条約調印時に、日本とアメリカの間では安全保障条約が結ばれ、日本国内の米軍基地を引き続き米軍が使い続けられることになっていた。占領軍は去らなかったのだ。講和条約のどさくさに紛れて発効した日米安保条約は、1958年頃から日米間で改定交渉が行われ、1960年には調印される運びとなった。これに日本中から非難の声が上がり、安保反対のデモ行進が国会を幾重にも取り巻くことになった。

 映画はこの60年安保を中心に、日米関係、日本人にとっての戦争、駐留米軍問題、基地に依存した地域経済、基地の存在によって生じる犯罪や事故、日本人にとっての民主主義、沖縄問題などを紹介していく。ユニークなのは時代の語り部として、画家、写真家、デザイナー、ミュージシャンといった、アーティストたちの証言を数多く取り上げていることだ。彼らは「言葉」にならない時代の空気を、言葉ではないそれぞれの「表現」で世に問うていく。残されたその時代の作品たちは、どんな言葉より、どんな記録映像より鮮明に、その時代の空気を今に伝える。60年安保を芸術家の視点から描くというこの映画の狙いは、見事に成功していると思う。

 1960年の安保反対闘争は全国民的な運動になったにも関わらず、結局は安保条約の成立を阻止することができなかった。今から50年前のこの出来事が、日本人の政治に対するトラウマになっているように思う。自分たちが何をやっても、政治はどうせ変わらない。そんな政治不信の根源が、60年安保の敗北にあるのではないだろうか。これは今の日本を知るためにも、ぜひ観ておくべき映画だと思う。

(原題:Anpo)

9月18日公開予定 渋谷アップリンクほか全国順次公開
配給:アップリンク
2010年|1時間29分|日本|カラー|16:9
関連ホームページ:http://www.anpomovie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ANPO
関連DVD:リンダ・ホーグランド監督
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