隠された日記

母たち、娘たち

2010/08/05 松竹試写室
祖母はなぜ幼い母と叔父を捨てて家を出てしまったのか?
隠されていた日記が暴く過去の真実。by K. Hattori

Kakusareta  仕事の都合で家を離れ、カナダで暮らしているオドレイがフランスに戻ってくる。母マルティーヌは評判のいい内科医で、現在は自宅を兼ねた診療所で夫のミシェルと二人暮らし。だがオドレイは昔から母親と折り合いが悪く、帰宅しても衝突するばかりだ。オドレイは集中して仕事をするため、幼い頃一家で暮らしていた海岸沿いの家に滞在することにした。だが彼女はその台所で、1冊の古いノートを見つける。それは母マルティーヌが子供の頃、家出して行方知れずになったという祖母ルイーズの日記帳だった。祖母は夫と子供を置き去りにしたまま家を出た、身勝手で冷たい女だったと聞かされている。だがノートに綴られたルイーズの日記には、それとはまったく違う彼女の姿が描かれていた……。

 日本語のタイトルが面白い。映画の中には3人の女性が出てくるのだが、そのうち2人は母であり、2人はその娘だ。母が2人、娘が2人出てくるのに3人になるのは、祖母・母・娘の3代の中で母が祖母の娘であり、同時に娘の母でもあるからだ。それが『母たち、娘たち』というタイトルの由来。こうなるとこの映画の中で、主人公が誰なのかがわかる。映画の語り手は娘であるオドレイだが、この映画の本当の主人公は母マルティーヌなのだ。観客はオドレイの視点を借りて、母マルティーヌに接していくことになる。彼女がなぜ娘に素直に接することができないのか。それは彼女の「母に捨てられた」という体験がトラウマになっているためだ。だがオドレイは祖母ルイーズの日記を発見することで、こうした過去に異議を突きつける。祖母は本当に母を捨てたのだろうか? その謎を解くミステリーが、この映画を引っ張っていく。

 この映画を観ると、かつて女性がいかに社会的に弱い立場であったかがよくわかる。女性がいかに自由を阻害されていたか、男社会の中で虐げられていたかがよくわかる。ルイーズは彼女の生きていた時代の中では異端視されたが、現代人なら男であれ女であれ彼女の立場に同情するだろう。最近は日本でも再び専業主婦願望を持つ若い女性たちが増えているようだが、ルイーズの生きた時代の専業主婦は自ら願って専業主婦業をしていたわけではない。そうするしか、女性が生きる方法がなかったのだ。女性は夫の許す範囲内でのみ小さな自由を与えられる。それは台所で家族のために料理を作る自由であり、夫がたまに買ってくれる服をファッション雑誌から選ぶ自由だった。

 女性が自立し自由を獲得するのに、この映画では祖母から孫までの3代かかっている。しかしそうして手に入れた自由が、女性に幸福をもたらすのかというと、それがまた微妙なところだ。オドレイの手にしている自由は、祖母ルイーズから母マルティーヌを経てようやく手に入れたもの。だが彼女は幸せだろうか? もはや女性たちはルイーズの時代には戻れない。女たちの苦闘は今も続いているのだ。

(原題:Meres et filles)

10月公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:アルシネテラン
2009年|1時間44分|フランス、カナダ|アメリカンビスタ|ドルビーSRD|サウンド
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/diary/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:隠された日記 母たち、娘たち
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