1967年に「ハートに火をつけて」でメジャーデビューし、1971年にバンドの中心メンバーであったジム・モリソンの急死によって活動に事実上の終止符を打ったドアーズについてのドキュメンタリー。監督は『ジョニー・スエード』のトム・ディチロ。映像はドアーズが活動した当時に撮影されたライブ映像、ニュース映像、未発表の映画などで構成されていて、新たに追加撮影されたものは皆無だという。ナレーターはジョニー・デップ。
ドアーズはその時代の洋楽ファンにとっては衝撃的な存在だったようだが、1966年生まれの僕がリアルタイムで知るはずのないバンドだ。ドアーズが活動していた1970年前後の「若者たち」は、1940年代から50年代初頭に生まれたベビーブーマー世代。僕の年代とはだいぶ開きがある。僕がドアーズを初めて聴いたのは、レコードではなく映画の中だった。1980年に日本で公開されたフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』で、オープニングにドアーズの「ジ・エンド」が使われていたのだ。当時この映画の台詞入りのサントラ盤というものが発売されていて、僕はそれを自分の小遣いで購入した。そんなわけで僕は今でも、「ジ・エンド」と言えば『地獄の黙示録』を思い出す。ドアーズについてはその後、1991年にオリバー・ストーンが監督した『ドアーズ』という伝記映画も観ている。ヴァル・キルマーがジム・モリソンを演じ、メグ・ライアンが恋人のパメラ・カーソンを演じた伝記映画だった。
今回の映画はドアーズにとって初の公式ドキュメンタリーだそうで、この映画のための追加撮影が一切行われていないというのが売り。ドアーズ活動時に撮影されていたおびただしいライブ映像やニュース映像を、85分というコンパクトな時間に凝縮した上で、そこにナレーションをかぶせている。ナレーションは後付けの解説になることなく、映像素材の隙間を補完する。関係者にインタビューして過去を回想させたり、後知恵であれこれ解説することは簡単だろうが、それは映画を観る人たちに40年という時間の隔たりを感じさせることになる。だがこの映画ではドアーズとジム・モリソンの生きた時代を観客に追体験させるために、その時代の映像によってその時代の有り様を再構成していく。そのための強力なツールとして、ジム・モリソン自身が晩年に製作した映画『HWY(ハイウェイ)』の未公開映像が用いられている。
既存映像の寄せ集めというこのドキュメンタリー映画に作品としてのまとまりを作り出すにあたって、この映画の引用が果たしている役割は大きい。盗んだ車でひたすらハイウェイを疾走するジム・モリソンの映像が、そのままこの映画の強力な縦軸になっているのだ。あたかも天国からやって来たジム・モリソンが、映画を観る人たちに自分自身の過去を語っているかのような錯覚に陥る。
(原題:When You're Strange)
DVD:ドアーズ/まぼろしの世界
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