小山内剛は19歳のフリーター。非正規雇用で明日の身分すら定かではない典型的なワーキングプアだが、同僚の自殺をきっかけに盲導犬訓練士学校に入学することにした。学校は学費がタダなのに加えて、資格と技術を身に着ければ一生食いっぱぐれないだろいうという彼なりの将来展望があってのことだ。飲み込みの早い剛は訓練士としてめきめき力を付けていくが、教官はそんな剛の能力を認めつつも「いずれ技術だけでは越えられない壁にぶつかるぞ」と警告する。同じ頃、写真家の父が仕事に専念すると称して家を出た長谷川家では、将来の盲導犬候補となる子犬を訓練所から預かり育てはじめていた(この仕事をパピーウォーカーと呼ぶ)。チエと名付けられた子犬はすくすくと成長し、10歳の美羽によくなついている。犬を預かっているのは10ヶ月。その先には悲しい別れが待っているのだ。やがて盲導犬としての訓練を終えたチエは、ライブ中の事故で失明したロック歌手・真琴のパートナーになるための訓練を始めるのだが……。
あらすじを書いていても気になるのだが、映画序盤は主人公格の3つの視点が入れ替わり立ち替わりで少し落ち着かない。若い訓練士の剛、パピーウォーカー(盲導犬の育ての親)である長谷川家の長女・美羽、事故で失明し自暴自棄になっていた真琴の3人がこの映画の主人公ではあるの。しかしその中でもあえて中心となる人物をあげるなら、それはやはり訓練士の剛だと思う。他のふたりの扱いをもう少し控え目にして、剛中心にエピソードをまとめた方がスッキリとした筋立てになったのではないだろうか。登場人物たちそれぞれに、メインエピソードとは無関係なサイドエピソードがあっても構わない。それがキャラクターの厚みを出すことに貢献するからだ。しかしサイドエピソードがあまり大きくなると、そちらに引きずられてメインエピソードの転がりが悪くなる。この映画では剛が訓練学校を卒業するまでの2年があっさりと描かれているが、このエピソードをもう少し増やして、長谷川家や真琴のエピソードを減らしてもよかったと思う。
そんなわけで映画としては少々ごたごたした点もあるのだが、盲導犬普及のための啓発PR映画としてはよくできている。盲導犬自体に対する社会的な認知が進んでも、盲導犬がどのように育てられ、どのように訓練が行われ、盲導犬としての役目を終えた犬たちがどのような余生を送るのかについてはほとんど知られていないはずだ。この映画ではそうした盲導犬についての疑問に、いろいろな面から答えてくれる。人間的にも経験的にも未熟な若い訓練士が、新米のパピーウォーカーや、事故で中途失明した若い女性などと織りなす物語には「青春ドラマ」としても面白い。キャラが立っているので、他の訓練生のエピソードなど交えつつ、1クール13回ぐらいの連続テレビドラマにしてもいいかも。
DVD:パートナーズ
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