ラスト・ソルジャー

2010/09/16 シネマート銀座試写室
ジャッキー・チェンとワン・リーホン主演の時代活劇映画。
ドラマ作品としてよくできている。by K. Hattori

Lastsolgdier  春秋戦国時代末期の紀元前227年。衛の軍勢が梁を攻めるが途中で待ち伏せにあい、激戦の末に両軍3千の将兵はほぼ全滅した。だがこの激戦の中でたった2人が生き延びたのは、本人たちにとって幸福だったか、それとも不幸なことだったのか……。生き残りの一人は、衛軍2千を率いて戦った将軍。もう一人は名もない梁軍の農民兵士。梁兵は怪我をして身動きが取れなくなった衛の将軍を縛り上げると、報奨金がたんまりもらえそうな高価な人質として梁の都まで連れ帰ろうとする。将軍は何とかそこから逃れようとする。だがそんなふたりを追う、衛の精鋭部隊がいた。彼らは将軍を救出するための捜索隊か? じつはそれは、生き残った将軍を抹殺しようとする暗殺部隊だった。将軍は前に進めば梁の捕虜となり、後ろに下がれば暗殺部隊の手にかかるという状況からどう抜け出すのか? 報奨金目当ての農民兵士は、将軍を無事に生きたまま梁まで連れて行けるのか?

 ジャッキー・チェンとワン・リーホン主演の時代劇アクション映画。ジャッキーは梁の農民兵を演じると同時に、原案・製作総指揮・武術指導を兼務し、劇中では歌も披露。演じている農民兵は生き残るためなら卑怯な手やズルイ手も使う狡猾な男で、「生き抜く」ことに対する執着だけで多くの戦場で死線をかいくぐってきたような男。黒澤明の『隠し砦の三悪人』で、千秋実と藤原釜足が演じる農民兵みたいなものだ。目指すのは立身出世や国に対する貢献や名誉ではなく、報奨金をもらって兵を退き、嫁をもらって故郷で畑仕事をすること。ジャッキー・チェンはもともと豪傑タイプのヒーローを演じることのない俳優だが、今回の映画はそれが特に顕著だ。何しろ彼が演じている農民兵には、名前すら与えられていない。しかしその無名の農民兵が、その後の歴史を大きく変えるような働きをすることになる。

 アクション映画としての見せ場も多いのだが、それよりこれは、個性も立場も境遇も異なるふたりの男が、一緒に旅をして行く中で友情に似た絆を深めて行くロードムービー型のバディムービーとしての要素が大きい。要するにドラマ作品としてよくできている。旅の過程で捕虜になった将軍の正体が少しずつ明らかにされて行くと同時に、利己主義のかたまりのように見えていた農民兵が持つ義侠心や愛国心が少しずつ見えてくる構成。その結果として、話の先行きは予想しにくくなってくる。当初は兵士が将軍を捕虜にして故郷に錦を飾るか、さもなくば将軍がまんまと逃げおおせて兵士がほぞをかむかの二者択一しか考えられなかった物語の展開に、いくつもの新しい可能性が出現してくるのだ。兵士が将軍の従者として敵国で暮らす可能性は? 将軍が地位と身分を捨てて、ひとりの平民として暮らす可能性は? 結果は観てのお楽しみだが、予想は裏切られ、期待は裏切られない、忘れがたい余韻の残るエンディングだった。

(原題:大兵小将 Little Big Soldier)

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11月13日公開予定 渋東シネタワー
配給・宣伝:プレシディオ 宣伝協力:アニープラネット
2010年|1時間35分|中国、香港|カラー|シネマスコープ|DOLBY DIGITAL
関連ホームページ:http://www.lastsoldier.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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