リミット

2010/09/21 シネマート六本木(スクリーン4/GAGA試写室)
誘拐されて小さな木箱に閉じ込められてしまった男の物語。
二重三重の制約を課した映画の仕掛けに感心。by K. Hattori

Limit  イラク“復興支援”のため傭われたアメリカ人のトラック運転手ポール・コンロイは、仲間たちと隊列を組んで移動中テロリストたちに襲われた。気がつくとそこは、棺のような小さな木箱の中。真っ暗な中を手探りで探すと、ジッポのオイルライター、鉛筆、アラビア語表示の携帯電話などが見つかった。呼び出し音に誘われるまま携帯電話を手に取ると、ひどく訛った片言の英語で「助かりたければカネ、500万だ」という脅迫の言葉。ポールは身代金目的の誘拐犯たちに、人質として捕らえられてしまったのだ。ポールは必死に外部に連絡を取って、仲間に、会社に、アメリカ軍やFBIに、自分を救出してくれるよう願うのだが……。

 登場人物が主人公ひとりだけ。舞台になっているのが主人公の閉じ込められている木箱の中だけという、究極のワンシチュエーション・サスペンス映画。他の登場人物たちは「声」や携帯に配信される「動画映像」での出演。映画はしばしば暗転する(光源は主人公が持っているジッポや壊れかけた懐中電灯などに限定されているのだ)のだが、映画の中の時間経過と映画の上映時間がほぼ一致するリアルタイム進行の演出になっている様子。ここからは映画の作り手たちが、映画に対して二重にも三重にもカセをはめて、その制約の中で映画を作ることを楽しんでいることが伝わってくる。この映画の設定自体は決して明るくも楽しくもないのだが、作り手たちが自ら課した限定された状況の中で、主人公を徹底的にいじめていじめていじめ抜く姿勢にはゲーム的な面白さがある。これはヒッチコック映画の主人公が、本来ならまったく無関係な犯罪に巻き込まれてドツボにはまっていく姿にも似ている。ただし今はヒッチコックが活躍していた時代とは違う。主人公が無事に危機を脱して、めでたしめでたしになるとは限らない。

 主人公が箱の中から動けないという話を映像化するにあたって、作り手たちが一番工夫しているのは撮影だと思う。これに関してはよくもまあ、これほど自由自在にカメラが動けるものだと感心するしかない。本来ならカメラが入れないはずの数センチの隙間にカメラが入り込み、主人公のありとあらゆる表情や仕草を写しだしていく。もちろんこれは実際に「箱の中」で撮影しているわけではなく、撮影用に横板や天井が取り払われたり、取り外せたりするセットを使っているわけだが、それにしてもここで演出されている閉塞感はものすごい臨場感。汗と吐息と砂埃の匂いが、画面から伝わってくるような迫力だ。

 主人公本人は木箱の中からまったく身動きできないのに、携帯電話を通じて外部と辛うじてつながっているという状態は、(作り手が何を意図したか知らないが)現代人のネット依存を批判しているようにも見える。人はネットを通じて、地球の裏側とでもつながることができる。しかしネットを通じて知覚されている世界は、本当の現実なのだろうか?

(原題:Buried)

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11月6日公開予定 シネセゾン渋谷ほか全国順次ロードショー
配給:ギャガ 宣伝:ギャガ、アルシネテラン、寿
2009年|1時間35分|スペイン|カラー|1:2.35|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://limit.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:リミット
関連DVD:ロドリゴ・コルテス監督
関連DVD:ライアン・レイノルズ
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