新作を出すたびベストセラーリストの上位にランキングされる人気作家ペク・ヒスは、身に覚えのない盗作疑惑をかけられ文壇から姿を消す。疑惑の真偽はうやむやになってしまったが、問題は彼女がこの事件をきっかけに深刻なスランプに陥り、1行も書けなくなってしまったことだ。彼女の再起を期待する旧知の編集者は、田舎町にある湖畔の貸別荘を執筆場所として借り上げる。まだ幼い娘ヨニと共にその別荘を訪れるヒス。だが古い牧師館だったというその古ぼけた貸別荘に来ても、彼女の創作意欲にはまったく何の励ましにもならない。幼い娘が別荘の中でたてる物音にいら立ち、かといって娘の姿が見えなくなればオロオロする情緒不安定な状態の中で、娘は目に見えない「お姉ちゃん」を作って一緒に遊ぶようになる始末。だがやがてヒスは、娘の語る「お姉ちゃん」の話に引き付けられていく。それは自分たちが今借りているこの別荘で起きた、ひとつの殺人事件の物語だった。この話をもとに小説を書き上げたヒスは、再び人気ベストセラー作家として脚光を浴びることになる。だがその数週間後、発売されたばかりの新作小説にまたもや「盗作疑惑」が持ち上がる。「娘から聞いた話にヒントを得た小説だ!」と説明しても、周囲の人たちは悲しみと怒りの入り交じった目でヒスを見つめるばかりなのだが……。
韓国製のスーパーナチュラル・スリラー映画だが、ホラー映画というよりサスペンス・ミステリーの風合いが強い。ベストセラー作家の「盗作騒ぎ」がなぜ起きたのか、なぜヒロインが書いた小説とそっくり似通った小説が別に存在するのかという「謎」がこの映画の中心。映画前半はそこに至るプロローグで、古びた貸別荘を舞台にしたゴシックホラー。映画の半ばで「盗作騒ぎ」が起こり、映画後半は盗作作家の汚名を払拭するためヒロインが奮闘するサスペンス・アクション映画になる。
物語の最後に前提をひっくり返すのではなく、物語の中盤でそれまでの物語をひっくり返すというユニークな構成。このどんでん返しは観客にとって不意打ちで(ただしその予兆はそこかしこにある)、映画を観ていて一番驚かされた部分でもある。ただし映画の後半がこの中盤の「驚き」に見合う新しい驚きや楽しさを提供できず、ドタバタと泥臭い追いかけっこ型の活劇が続くのは残念。アイデアは面白いので、もう少し手を入れればとびきり面白い映画になりそうなんだけど……と思ったら、この映画にはすでにハリウッドの映画会社からリメイクの申し出があるとのこと。ハリウッドの手練れ脚本家がきちんと手を入れれば、これは2倍も3倍も面白い映画になると思うので期待したい。
主演は『仁寺洞スキャンダル』や『TSUNAMI -ツナミ-』のオム・ジョンファだが、映画前半の神経質そうな彼女は引きつった顔で目だけギョロギョロさせる表情がまるで「鳥居みゆき状態」だ。これがちょっと残念。
(英題:Bestseller)
DVD:ベストセラー
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