アイオワの小さなダイナーでウェイトレスをしていたアリは、歌手になる夢を抱えて大都会ロサンゼルスにやってくる。だが芸能事務所はどこも彼女を門前払い。しかし彼女は偶然入ったナイトクラブ「バーレスク」で、豪華なショーに魅了されてしまう。「自分もここで働きたい!」。とりあえずウェイトレスとして店で働き始めたアリだが、それより先にはなかなか進めず、客席の通路からショーを眺めるだけの日々。しかし店のオーディションに飛び入り参加したアリは、オーナーのテスに認められてコーラスガールの一員として舞台に立てるようになった。見る人が見れば一目でわかる彼女の実力。やがてアリは店の花形ニッキの代役として、ステージの中央へと送り出されるのだが……。
田舎町出身のコーラスガールが、事故を起こしたスターの代役に抜擢されて一夜にしてスターになる。これは1933年のミュージカル映画『四十二番街』の現代版だ。『四十二番街』はブロードウェイのショウビジネス界を描いたバックステージものの古典だが、本作『バーレスク』ではそれをロサンゼルスのナイトクラブに移植。バスビー・バークレーが振り付けた豪華絢爛な群舞ではなく、小さなステージの上で数人のダンサーが密度の濃いダンスと歌を披露する。ヒロインが働く店の雰囲気は20世紀初頭のパリのキャバレー(ムーランルージュやリド、クレイジーホースなどが有名)だというが、バーテンたちの中性的なムードなども含めて、これはボブ・フォッシーの『キャバレー』(1972)だろう。映画『キャバレー』は1930年代のベルリンが舞台だが、それから80年後のロサンゼルスになると、ショーはきらびやかにドレスアップされてスペクタクルの度合いを増していく。猥雑さとリアリティを狙った『キャバレー』に対して、『バーレスク』はスクリーンの上に夢の世界を描き出す。それは必ずしもリアリズムではないのだが、ミュージックビデオに馴れている現代の観客にはこの程度の演出がないと物足りないだろう。ステージ上で演じられているはずのショーが、舞台演出の制約を逸脱しつつもギリギリ舞台上に踏みとどまっている様子は、『四十二番街』でバスビー・バークレーが見せた演出にも通じるものだ。
『四十二番街』はヒロインがスターになって終わりだが、『バーレスク』はヒロインがスターになるまでが全体の半分、その後はスターになったヒロインのステージが次から次に出てくるサービス満点の構成。話はどのみちハッピーエンドだと最初からわかっているし、この手の映画につきものの「ショービジネス界の裏側のドロドロ」などをあえて描かずさっぱりと切り捨てている割り切り方がむしろ気持ちいい。話が陳腐だとか、ご都合主義だとか、そんな批判はこの映画に対してまったくナンセンス。歌と踊りが楽しければそれでいい。これはそういう映画なのだ!
(原題:Burlesque)