ワラライフ!!

2010/12/13 アスミック・エース試写室
日常の中の小さな幸せの積み重ねこそが本当の幸せ。
でもそれだけで映画は成立するのか? by K. Hattori

Wararaifu  キム兄の愛称で知られるお笑いタレントの木村祐一が、昨年春に公開された『ニセ札』に続いて撮った2本目の監督作。『ニセ札』は観ていないので、僕はこれが木村監督との初対面だ。恋人との同居・結婚を控えた若い男が、自分の子供時代(小学生から高校生ぐらいまで)の出来事をいろいろと思い出すという話。回想シーンを挿入しながら現実(現在)の物語も少しずつ進行していくのだが、そこに大きなドラマがあるわけではない。実家の引っ越しがあり、交際している恋人との住まい探しがあり、小学校時代の友人との思いがけない再会があるといった程度。大きな事件やドラマは現実の世界で起きず、過去の回想シーンの中にも大きな事件やドラマはない。しかし日常の中の些細な出来事の積み重ねが、結局は人間にとっての「しあわせ」の本質なのではないだろうか……というお話。

 まあ映画の趣旨はわかる。でも僕はこの映画から、1本の映画を観たことによる満足感や満腹感を味わえない。言ってみればこれは、メインディッシュのないコース料理みたいなもの。食前酒があって、前菜があって、スープがあって、サラダがあって、デザートがあって、デミタスカップで濃いコーヒーを飲んで、それでおしまい……みたいな映画なのだ。出てくる料理はどれもそこそこ美味しい。少なくとも不味くて食べられないというものではない。でもこう次から次に前菜とデザートみたいなものばかりが続くばかりでは、腹はふくれても心理的に満腹感が味わえない。観客が映画に求めるものは、人によって少しずつ違うと思う。中にはこういう、軽いエピソードがひたすら続く映画に感心したり感動したりする人もいるのかもしれない。でも少なくとも僕は、映画の中にパンチの効いたメインディッシュを求めたい。

 この映画について言うなら、僕はやはり過去にも現在にも共にドラマらしいドラマがないという点がネックだったと思う。ドラマとは葛藤だ。人間と人間の間に生まれるぶつかり合いや、ひとりの人間の内部に生じる悩みや苦しみの中にこそドラマがある。これは目を見張るような大事件を起こせと言っているわけではない。他人の目にはどんなに些細なものに見える小さな事柄でも、それに対して人間が真剣に取り組む姿を見せさえすれば、それは1時間半の映画を成立させるドラマになり得るはずなのだ。この映画の中にだって、掘り下げてゆけばドラマになり得るエピソードはいくらだってあるはず。でもこの映画はそれを、数多くのエピソードの中のひとつとしてしか描かない。

 小さな水滴も一点を打ち続ければ、大きな石に穴を開けることができる。しかしばらばらに落ちてくる雨粒では、石の表面が少し濡れておしまいだ。この映画のエピソードは結局、ばらばらの雨粒に過ぎない。穏やかでのんびりとした気持ちにはなっても、そこから大きな感動を引き出すには至らない。映画としてはもっと工夫が必要だろう。

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1月29日公開予定 シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:ファントム・フィルム 宣伝:スキップ
2010年|1時間34分|日本|カラー|ヴィスタサイズ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.
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