4月の涙

2011/01/24 シネマート銀座試写室
20世紀初頭のフィンランド内戦で生まれた禁じられた恋。
地味な映画だが鑑賞後の充実感がある。by K. Hattori

Tearsofapril  北欧スカンジナビア半島の根本にフィンランドという国がある。東側のロシアと西側のスウェーデンの間で、常に両国の干渉と支配を受けてきた国だ。1917年にロシア革命が起きると、12月にフィンランドは帝政ロシアの支配下を脱して悲願の独立を果たした。しかし国内はロシア革命の影響を受けて急激な社会改革を望む赤軍と、これに抵抗する白軍に分裂。独立直後の1918年1月から両者の間で激しい内戦が戦われることになる。当初優勢は赤軍側が首都ヘルシンキを手中にするなど優勢に戦いを進めたが、3月に正規軍中心の白軍側が反攻に転じる。寄せ集めの市民兵だった赤軍はあっという間に瓦解し、4月には首都ヘルシンキも陥落。5月には赤軍残党が国外に脱出し、白軍勝利で内戦は終わる。これが映画の背景にあるフィンランドの歴史だ。

 1918年4月。敗走する赤軍の女性部隊が白軍に包囲され、投降した赤軍女性兵たちは白軍の兵士たちに輪姦された上で殺される。だがこの殺戮をたったひとり生き延びた若い女性兵士がいた。「捕虜には正式の裁判を」と主張する白軍准士官のアーロは、彼女をたったひとりで護送し裁判所に向かう。だがその途中でボートは転覆。無人島にたどり着いたアーロと女性捕虜は敵味方の関係を越えて、生きるための共同生活を始める。最初は敵対していたふたりの関係だったが、この数日間でそれは決定的に変わってしまった。通りかかった船に助けられて島を脱出したふたりだが、アーロはそれでも彼女を裁判所に連れて行く。裁判所のエーミル判事は戦前から人文主義者として名高く、彼なら捕虜に公正で寛大な処置を下してくれるという期待からだ。だがアーロがそこで出会ったのは、戦争が生み出した奇怪なモンスターだった……。

 物語の中心は白軍の准士官アーロと赤軍の女性捕虜ミーナのラブストーリーなのだが、舞台が裁判所に移ってエーミル判事が登場すると、途端に彼が物語の全体を支配するようになる。文学と詩と音楽を愛し、愛と寛容と理性を説いた人文主義者は、今や捕虜収容所の独裁者になっている。次々送られてくる赤軍捕虜を、機械的に処刑場に送り出す殺人マシーンだ。そのエーミルが若いアーロに対してだけは、挫折したヒューマニストとしての自分の弱さを隠すことなく語ってみせるのだ。エーミルが抱いたアーロに対する特別な想いが、少しずつ映画を観ているこちらに明らかになってくる面白さと、それに劇中の主人公たちがなかなか気づかないスリル。果たしてミーナは解放されるのか。アーロとの関係はどうなるのか。エーミルの目的は何か。母親の帰りを待つ孤児の少年の運命は。まったく目が離せないまま、映画はラストまでじりじりと進んでいく。うまくできたサスペンスだ。

 公開規模が小さい地味な作品だが、戦争という暴力の本質が人間性の破壊にあることを描ききった力作。本当なら岩波ホールあたりで上映すべき作品かも。

(英題:Tears of April)

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春公開予定 シネマート新宿、銀座シネパトス
配給:アルシネテラン
2009年|1時間54分|フィンランド、ドイツ、ギリシャ|カラー|シネマスコープ|SRD
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:4月の涙
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