引き裂かれた女

2011/02/24 京橋テアトル試写室
年上の作家と若い大富豪の御曹司の間で揺れ動く美女。
ドロドロの修羅場を軽やかに描く。by K. Hattori

Hikisakareta  タイトルがやけに物々しいのでどんな映画かと思ったら、最後のオチにちょっとニヤリ。フランス語の原題はよくわからないが、英語のタイトルは『A girl cut int two』で、これもちょっと人を食っている。監督はクロード・シャブロル。主演はリュディヴィーヌ・サニエ、ブノワ・マジメル、フランソワ・ベルレアン。

 ヒロインのガブリエル・ドネージュはテレビ局のお天気お姉さん。母親の経営する小さな書店に新作プロモーションのため訪れた作家シャルル・サン・ドニと親しくなった彼女は、女たらしの手練手管にすっかり降参して身も心も彼に献げ尽そうとする。だがそんな彼女を重荷に感じたのか、サン・ドニは彼女を一方的に捨て去る。傷心のガブリエルは、以前から言い寄る大富豪の御曹司ポール・ゴダンスの求婚を受け入れることに。ところが別れた女が別の男のものになると知るや、未練を感じるのが世の男の常。サン・ドニは再び彼女のもとに舞い戻って肘鉄を食らうが、彼女自身はそんな関係がまんざらでもない様子。やがてガブリエルとポールは結婚するのだが……。

 物語のベースになっているのは、20世紀初頭にアメリカで起きたスタンフォード・ホワイト殺害事件。ホワイトは有名な建築家だったが、愛人だったエヴリン・ネズビットの夫ハリー・ケンドル・ソーに射殺された。その場所がマディソン・スクエア・ガーデンの屋上劇場で、観劇中という衆人環視の中での殺人事件だったから当時のマスコミは大騒ぎ。ところが死んだホワイトのセックススキャンダルが暴露されると、世間は殺人犯であるソーの側に同情。ソーは心神喪失で無罪になったという。この事件はミロシュ・フォアマンの『ラグタイム』と、リチャード・フライシャーの『夢去りぬ』で2度映画化されているというのだが、僕はどちらも未見。しかし『引き裂かれた女』は事件をそのまま映画化しているわけではなく、人間関係や事件のアウトラインだけを借りた別の話。ここでは事件の血生ぐささや、エロチックな幻想などを抑制して、3人の男女が出入りして台詞を交換して行く姿だけがテンポよく描かれていく。

 描かれている人間関係は愛憎ドロドロの修羅場なのだが、映画のタッチは軽やか。不倫の恋におぼれようが、変態チックな性関係が強要されようが、言い寄る男が統合失調症だろうが、人が死のうが、映画は春の小川のごとくサラサラ流れてしまう。このへんは最初から作り手のねらいの中にも入っているのだろうが、こうした軽やかさの背後には、監督の人間観察の底意地の悪さのようなものも垣間見られる。例えばそれは、ポール・ゴダンスの家族の描写、サン・ドニと妻の関係などに顕著だ。この映画の中では主人公たち3人の確執より、ゴダンスやサン・ドニの周囲の方がよほど恐ろしい。レストランの日本人カップルもへんに気になる……。

(原題:La fille coupee en deux)

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春公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム 宣伝:VALERIA
2007年|1時間55分|フランス|カラー|ヴィスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.eiganokuni.com/hiki/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:引き裂かれた女
関連DVD:クロード・シャブロル監督
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