テンペスト

2011/05/09 京橋テアトル試写室
シェイクスピアの「テンペスト」をジェリー・テイモアが映画化。
主演のヘレン・ミレンはすごい貫禄だ。by K. Hattori

Tenpest  シェイクスピアの戯曲「テンペスト(あらし)」を、『アクロス・ザ・ユニバース』のジェリー・テイモア監督が映画化した復讐ドラマ。原作では男性だった主人公プロスペローを、ヘレン・ミレンが女性プロスペラとして演じているのがユニーク。同じ原作の映画化としては1928年のジョン・バリモア主演作、1979年のデレク・ジャーマン監督作、1982年のポール・マザースキー監督作などがあるのだが、僕は1991年のピーター・グリーナウェイ監督作『プロスペローの本』しか観ていない。しかもこの映画は内容をまったく覚えておらず、ワダエミの担当した衣装や、マイケル・ナイマンの音楽、そしてグリーナウェイの演出する幻想的な映像美にうっとり……というものだった。(デジタル技術を使った局部の修正が話題になった映画でもある。)

 ミラノの大公妃だったプロスペラは、大公の死後に夫の職を引き継ぎ、人々からも名君として慕われていた。だが12年前、ナポリ王と通じた弟アントーニオに裏切られ、幼い娘ミランダと共に追放される。魔物や妖精の住む無人の島に流れ着いたプロスペラは、かねてより手がけていた魔術の研究を極め、空気の妖精アリエル(字幕ではエアリエル)と魔女から生まれた怪物キャリバンに身の回りを世話させながら、復讐の機会が来るのを待ち望んでいた。そして、その時は来た。ナポリ王アロンゾーと今やミラノ大公となった応答とアントーニオの乗る船が、島のすぐ側を通りかかったのだ。プロスペラは魔術の力を使って船を難破させ、乗員たちをバラバラに島に漂着させてきりきり舞いさせるのだった……。

 復讐譚ではあるが、暗さはない。島に流れ着いたミラノとナポリの貴族たちは、プロスペラの手のひらの上でおどる道化に過ぎない。復讐と赦しの間で葛藤し、自分を裏切った故郷の人々を恨むと同時に望郷の念に駆られるプロスペラは複雑な人物だが、この複雑さに匹敵する人物が劇中にはまったく登場しない。かろうじて同じような複雑さを見せるのは、空気の妖精アリエルぐらいだ。彼は自分を救ってくれたプロスペラとの契約に縛られる奴隷の身だが、単に命令で動くだけではなく、主人のために自らの判断でいかようにでも動き回る。同じようにプロスペラと契約で縛られているキャリバンが、ステファノーやトリンキュローと組んで主人プロスペラを殺害しようと考えることに比べると、アリエルの忠義ぶりが際立ってくる。アリエルは自由を望む一方で、プロスペラの奴隷であることに喜びを感じている。アリエルはプロスペラの分身であり、プロスペラにとって唯一の語り相手である彼女の分身でもあるのだ。

 ジェリー・テイモア監督の演出は「映像に置き換えられた舞台劇」のようなイメージで、冒頭の船の難破シーン前後を除けば、映画的な興奮やときめきがほとんど感じられない。しかし「テンペスト」という作品を映像化には、この手法が似合っているかもしれない。

(原題:The Tempest)

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6月11日公開予定 TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館
配給:東北新社 パブリシティ:アルシネテラン
2010年|1時間50分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.tfc-movie.net/tempest/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:テンペスト
サントラCD:The Tempest
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