1980年代のミラノ。労働組合で働くネッロは急進的な主張が周囲に煙たがられ、新しく設立された組合への移動を命じられる。だが赴任先である「協同組合180」は、精神病院の中にある授産施設だった。新しくできた法律で精神病院が縮小されたため、そこから押し出された患者たちが協同組合の名目で共同生活をしているのだ。しかしそこで与えられる仕事は、封筒の切手貼りなど単純作業のみ。受け取る賃金も雀の涙だし、仕事内容の質もまったく問われることがない。要するに彼らは働いた振りをして、小遣い銭を受け取っている状態だ。ネッロはこの協同組合により本格的な仕事を与えるため、建築現場の床張りの仕事を見つけてくる。新組合はおぼつかない足取りでこの新事業に取り組むのだが、その矢先に思いもかけないトラブルが起きてしまうのだった……。
実在する精神病患者たちの協同組合を取材して作られた、実話にもとづいたフィクション作品だ。監督のジュリ・マンフレドニアと脚本家のファビオ・ボニファッチは新聞記事をもとに最初のストーリーを作ったが、その後2年かけて精神衛生センターで取材するうちに、エピソードのほとんどを実話ベースのものに入れ替えてしまったという。例えば劇中で組合員たちがECの助成金で娼婦を買いに行くエピソードがあるのだが、これも驚くべきことに実話。こうした際どいエピソードは、それが事実だという確信がないとなかなか脚本に組み込めないだろう。登場するキャラクターたちにも、多くはモデルがいるのだという。
面白い映画だし、内容的にもいい映画だと思う。不満があるとすれば、脚本の構成が教科書通りでひねりがないことだ。ストーリーの起承転結がフォーマット(シド・フィールド流の脚本4分割理論)に沿ってがっちりとくみ上げられていて、破格な個性が感じ取れない。素材としては面白いのに、それを「中肉中背の標準体型」に押し込んで、誰からも好かれる八方美人的な映画に仕上げている。
要するにこの映画の形式は、ハリウッドが作る定番の「落ちこぼれチーム再生物語」と同じなのだ。周囲から見捨てられ、本人たちも駄目だと思い込んでいるチームがある。そこに型破りなコーチがやってきて活を入れ、メンバーたちはめきめき実力を付けていく。型破りなメンバーたちの個性が、適材適所で発揮されて強みとなる。だがチームの絶頂期に大きなトラブルが起きて、コーチは責任を取って指導から手を引くことを決意。しかし恋人やチームのメンバーたちの励ましでコーチは現場復帰し、以前にも増した大成功を収める。このフォーマットに沿いさえすれば、野球でもホッケーでもアメフトでも軍隊でも女子修道院の聖歌隊でも何でもござれなのだ。『人生、ここにあり!』はこの鉄板フォーマットを、精神病患者たちの協同組合という場所に当てはめたわけだ。
(原題:Si puo fare)
DVD:人生、ここにあり!
参考書籍:精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本(大熊一夫) 関連書籍:自由こそ治療だ―イタリア精神病院解体のレポート(ジル・シュミット) 関連DVD:ジュリオ・マンフレドニア監督 関連DVD:クラウディオ・ビシオ 関連DVD:アニタ・カプリオーリ 関連DVD:ジュゼッペ・バッティストン |