ぼくたちは見た

-ガザ・サムニ家の子どもたち-

2011/06/21 映画美学校試写室
2008年末に起きたガザ侵攻についてのドキュメンタリー映画。
迫害と戦乱の中で生きる子供たち。by K. Hattori

Bokumita  ユング心理学にシンクロニシティ(共時性)という言葉がある。何か意味のある偶然の一致のことだが、映画を観ていても時々同じような現象が起きることがある。たまたま時間の都合がいいという理由で朝から何本か試写の予定を入れたら、それが全部日本映画だった、あるいは韓国映画だった、中国映画だった……という偶然。全然関係のない映画なのに、脇役に出ている俳優が全部共通しているということもある。まあこういうのはほとんどが本当の意味での「偶然」でしかないのだが、今回この『ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子供たち-』を観たときは、まさにシンクロニシティだと思ってしまった。この映画は2008年末から2009年に起きたイスラエルによるガザ侵攻をテーマにしたドキュメンタリー映画だが、前日に観た『いのちの子ども』もまた、まったく同じ出来事を扱ったドキュメンタリー映画だったからだ。

 2008年12月27日、イスラエル空軍はパレスチナ自治区であるガザに大規模な空爆を開始。年明けの1月3日には地上部隊を投入して大規模な市街地での戦闘を行った。これらの攻撃では、通常は標的とされない学校や病院なども攻撃されて大勢の死傷者を出した。攻撃開始から3週間後の1月17日にイスラエル側が一方的に停戦を宣言して部隊を撤収するまでの間に、イスラエル側の死者13名に対して、パレスチナ側は100倍に及ぶ1300人以上の死者を出し、その何倍もの人々が負傷した。原因や経緯はどうであれ、この侵攻がいかに一方的で情け容赦のないものであったかがわかる。

 映画『いのちの子ども』はこの出来事を、イスラエル国内にいるユダヤ人の視点から描いていた。本作『ぼくたちは見た』は侵攻の余韻がさめやらぬ1月末にガザに入った取材チームが、現地で被害にあった子供たちを取材して証言を取っている。どちらも戦闘の様子を直接描いているわけではないが、イスラエルとパレスチナの双方からこの出来事を描くことで、2本の映画がこの出来事について補完し合うことになった。

 映画にはイスラエル兵士の残虐行為の数々が、数多くの証言や、子供たちの描いた絵、現場の映像などで紹介されている。武器を持たない丸腰の民間人を射殺し、女子供にも容赦なく銃弾を浴びせる兵士たち。住居からパレスチナ人を銃で追い立て、家具や荷物をすべて窓から外に投げ捨て、屋上の給水タンクを破壊し、家の壁という壁に侮辱的な落書きをし、コーランに脱糞する。戦車や装甲車で畑を踏み荒らし、掘り返し、果樹をなぎ倒す。その光景は、まるで東日本大震災に見舞われた東北の沿岸部のような有様。しかしこれは自然災害ではなく、人間の手によって行われた巨大な暴力の爪痕なのだ。

 映画としての問題点はいろいろあると思うが、人間がかくも残酷無慈悲になれるという証拠として、この映像は一見の価値があると思う。できれば『いのちの子ども』と合わせて観てほしい。

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8月6日公開予定 ユーロスペースにてモーニングショー
配給:アジアプレス・インターナショナル 宣伝:ブラウニー
2011年|1時間26分|にhん|カラー|DVCAM|ステレオ
関連ホームページ:http://whatwesaw.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち-
関連書籍:ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち-
関連DVD:古居みずえ監督
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