ハンナ

2011/07/22 SPE試写室
遺伝子改造で生み出された生まれながらの殺し屋ハンナ。
彼女を待ち受ける真実とは? by K. Hattori

Hanna  人里離れたフィンランドの森の中で、父親とふたりきりで自給自足の生活をしている少女ハンナ。彼女は一人前の大人に成長した時、父と離れて森を出て行かねばならない。そしてついにその時が来た。父の保管していた発信器のスイッチを入れると、発信源をたどってCIAの特殊部隊が彼女を取り囲む。連れて行かれたのはCIAの秘密施設。彼女はそこで、マリッサ・ヴィーグラーを殺さなければならないのだ……。

 『つぐない』のジョー・ライト監督が、同作に出演してアカデミー助演女優賞候補になったシアーシャ・ローナン主演で撮ったサスペンス・アクション映画。ヒロインの父を演じるのはエリック・バナ。宿敵マリッサを演じるのはケイト・ブランシェット。他にも中堅どころの俳優が脇を固めて、かなり充実したキャスティング。しかしこの映画、脚本がまるでだめだと思う。なぜこのレベルの脚本がハリウッドで映画化されてしまったのか、なぜこのレベルの脚本にハリウッドのスター俳優たちが出演してしまったのか、なぜこのレベルの脚本にスター俳優を出演させて国際ロケをするほどの大きな予算をかける必要があったのか、これらすべての理由に首をかしげてしまうほどのできなのだ。

 そもそも主人公のハンナが、マリッサを殺さなければならない理由がわからない。マリッサがハンナを殺さなければならない理由もわからないし、マリッサが組織と離れてまで、執拗にハンナを追いかけ回す理由もわからない。要するにこの映画は、登場人物たちを動かすだけの大きな「動機」に欠けるのだ。アクション映画にとって動機の不在は大きな不利になる。登場人物たちに十分な動機さえ与えられていれば、キャラクターは大きな玉が斜面を転がっていくように加速を付けてゴールに向かって動いていく。しかし動機が弱いと、玉は少し動いては止まり、止まってはまた動かし、動いてはまた止まり、ギクシャクとぎこちない動作を繰り返すしかない。これは観ていてとてもくたびれるのだ。

 遺伝子操作で生み出されたスーパーヒロインという設定は面白いので、作り方によってはハンナを主役にしたアクション映画シリーズに仕立てることも出来たはずだ。ひょっとしたら今回の映画でも、作り手にはそうした下心があったのかもしれない。最近のハリウッドでは映画を作る前の企画段階で、「シリーズ化が可能か否か」が重要な見当素材になっているとも言う。オリジナルの映画を単独でコツコツ当てていくより、1発ヒットを放って続編を何本か出した方が効率がいいからだ。そう考えるとこの映画が観客に多くの謎や疑問を提示したまま放置していることも、続編に向けての布石だったのかもしれない。しかしこれはあまりにもお粗末。次作以降への伏線的な小ネタが機能するのは、1作目がそれ単独で物語として完結し、そこで十分以上の満足感を観客が味わえればこそだろうに。

(原題:Hanna)

Tweet
8月27日公開予定 新宿ピカデリーほか全国公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2010年|1時間51分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビー・デジタル、DTS
関連ホームページ:http://www.hanna-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ハンナ
サントラDVD:ハンナ
サントラCD:Hanna
関連DVD:ジョー・ライト監督
関連DVD:シアーシャ・ローナン
関連DVD:エリック・バナ
関連DVD:ケイト・ブランシェット
ホームページ
ホームページへ