孔子の教え

2011/09/01 松竹試写室
古代中国の思想家孔子をチョウ・ユンファが演じる伝記映画。
論語が生まれた時代背景が見えてくる。by K. Hattori

Koshinooshie  紀元前221年に秦の始皇帝は中国全土を統一するが、それに先立つ数百年の乱世の時代(春秋戦国時代)に、諸子百家と呼ばれる多くの思想家や学派が現れた。その中でも、もっとも大きな影響力を持つ思想家が孔子だ。彼はそれ以前からあった儀礼や道徳を体系化し、道徳による政治を主張した。これを徳治主義と言う。徳による治世という思想は、孔子の死後も中国に影響を与え、中国では官吏養成のための正式な学問となった。日本もその影響を受けて、孔子の教えを記した「論語」をはじめ、儒教・儒学関連の書物が広く読まれるようになった。この影響は今でも日本に残っている。つい最近まで自殺する人は自分の親に「先立つ不孝」を詫び、不祥事で辞任する政治家は自分自身の「不徳」を恥じた。2,500年前の孔子の教えが、日本人の体に染みついているのだ。

 本作はその孔子を主人公にした伝記映画だが、中国・香港で孔子の生涯が本格的に映画化されたのはこれが初めてだというから少し意外だ。主演は香港が生んだ世界的な大スター、チョウ・ユンファ。アクション俳優でもある彼が孔子を演じるのは少し意外な気もしたが、多くの弟子たちを引き付けるカリスマ性と、どんな逆境にも負けない安定感を見せる孔子のキャラクターは、チョウ・ユンファなればこそ作り得たものかもしれない。孔子は書物の山に埋もれる学究の徒であると同時に、政治家としても多くの人を使って実務を行う実践の人であり、武術や音楽にも才能を発揮した万能の天才だった。この映画でも、孔子が弓を引いて大臣と腕比べをするシーンがある。孔子が武芸をたしなんでいたことは「論語」にも書いてあるが、チョウ・ユンファがそんな孔子像に血を通わせている感じだ。

 孔子は生涯のほとんどを、実際には国政に関わることのない無冠の政治思想家として過ごしている。しかし50歳を過ぎてからの2〜3年間、魯の定公に取り立てられて国政の重役を任されている。孔子にとって、自分の理論を実践できた数少ない機会だ。映画はそんな孔子にとってのキャリアの絶頂から始まり、魯国での政治的挫折、失意のまま始まった諸国遍歴の旅、どこにも受け入れられない絶望感、そして魯国への帰還までを描いている。孔子晩年の20年ほどの出来事を2時間強の映画にしているわけだが、孔子の思想や言葉が平和な時代の中での思索ではなく、乱世の混沌とした時代を背景に生み出されたことがよくわかる。混沌とした時代にこそ、人は普遍的な真実を追い求めるのだ。

 スケールが大きく勇壮な作品だが、女性監督のフー・メイは夫婦や親子の情愛、孔子と弟子たちの師弟愛などを細やかに描く。衛霊公夫人の南子は作品中でもかなり得意なキャラクター。能力はあっても権力の座から遠ざけられている孔子と、能力もあり権力を振るえる立場にいても、表立ってはそれを振るうことが許されない南子の出会いと別れは、映画中盤のクライマックスだ。

(原題:孔子 Confucius)

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11月公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ツイン 宣伝:ザジフィルムズ
2009年|2時間5分|中国|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.koushinooshie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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