もしも僕らが木を失ったら

2011/10/28 シネマート六本木(スクリーン4)
環境テロリストとして服役中のアメリカ人青年。
何が彼をその犯罪に走らせたのか。by K. Hattori

Tiff2011  環境テロリズム組織「地球解放戦線(ELF、Earth Liberation Front)のメンバーとして複数の破壊活動に関与し、2005年に逮捕されて現在は連邦刑務所に服役中の活動家ダニエル・マクガワンについてのドキュメンタリー映画。映画はマッゴーワンが逮捕されてから取材が始まり、彼の保釈中に十分なインタビュー取材を済ませ、彼の服役で幕を閉じる。映画は真面目だがおとなしく目立たない学生だった彼が、いかにして活動にのめり込み、組織の中で頭角を現していったかという話を本人や関係者の取材で明らかにして行く。当初は合法的で穏健な環境保護運動だった活動が、なぜ「テロリズム」と呼ばれる非合法で過激な活動に変化していったのか。

 主人公であるマクガワンの足取りをたどる部分はもちろん面白いのだが、この面白さを成り立たせているのは、映画を全体としてマヅルカ形式(回想形式)に構成した工夫にある。映画の冒頭で燃え盛る火災現場のニュース映像を見せ、逮捕されたマクガワンの顔を見せ、この男はどんな悪辣非道な男なのかと思うと、そこから意外な事実が浮かび上がってくるという仕掛けだ。映画を観ていると、誰だって途中からマクガワンのことが好きになるだろう。彼の行動に共感したり応援の気持ちを持つかどうかはともかく、彼の人柄の実直さや真面目さに、つい「寛大な判決を」と願ってしまうと思う。

 環境保護運動が過激化した理由は、行政当局や警察の横暴と弾圧に対する反発からだった。当初は穏便なデモ行進や座り込みなどに終始していた環境保護運動は、行政当局の騙し討ちにも似た不誠実な態度や、それに協力して合法的に情け容赦のない暴力を振るう警察の前に行き詰まりを見せる。映画の中には警官が無抵抗の運動家たちに警棒を振り下ろす場面や、木に登って伐採を拒否する人に至近距離から大量の催涙スプレーを吹き付ける警官たちの姿、山道に築かれたバリケードを重機で破壊する作業員たちなどが紹介されているが、一番ショッキングなのは、逮捕した運動家たちの目に催涙性の薬品を塗りつける警官たちの姿だ。非暴力の環境保護運動は、公的権力が振るう暴力の前にあまりにも無力だった。運動に行き詰まりを感じていた運動家の一部は、非合法の実力行使に突破口を見出そうとして行く。彼らは公的な暴力によって、非合法活動に追いやられたと言ってもいいのかもしれない。

 警察がどの程度明確な意図を持って運動を弾圧していたのかはわからないが、警察の弾圧は結果として環境保護運動を穏健派と過激派に分断した。穏健派は実効性のない烏合の衆として無力化され、過激派は犯罪者として検挙されることになったのだ。こうして環境保護運動は滅ぶ。日本の反原発運動も、やがて同じ道をたどらされることになるのかもしれない。

(原題:If a Tree Falls: A Story of the Earth Liberation Front)

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第24回東京国際映画祭 natural TIFF supported by TOYOTA
配給:未定
2011年|1時間25分|アメリカ|カラー
関連ホームページ:http://2011.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=197
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:もしも僕らが木を失ったら
DVD:If a Tree Falls: A Story of the Earth Liberation
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