果てなき路

2011/11/17 シネマート六本木試写室
映画の撮影現場では誰も思ってもみないことが起きる。
『断絶』のモンテ・ヘルマン監督最新作。by K. Hattori

Roadtonowhere  映画監督のミッチェルは、実在の事件をもとにした映画『ROAD TO NOWHERE』の製作をスタートさる。彼はB級ホラー映画に出演していた無名の女優ローレルを、物語の鍵を握るヒロインのヴェルマ役に大抜擢。しかしふたりは出会った途端に恋に落ち、映画は当初の予定を大きくずれてヴェルマ中心のものに変貌して行く。撮影現場をうろつく、素性の知れない関係者たち。ヴェルマとは何者だったのか? そしてローレルの正体は? 男たちがひとりの女に翻弄されて行く映画の内容と同様に、撮影現場もまたひとりの若い女優を中心に混乱の度合いを深めていく……。

 『断絶』のモンテ・ヘルマン監督が、1989年の『ヘルブレイン/血塗られた頭脳』以来21年ぶりに撮った監督作。映画作りにまつわる映画なのだが、この映画自体の予算が少ないので全体にチープな印象は免れないのが残念。劇中の台詞の中では「主役はディカプリオでどうだろう」とか「ヒロインはスカーレット・ヨハンソンが乗り気だ」などと威勢のいい台詞が飛び交うのだが、実際の撮影シーンになると絵がショボくなる。ヒロインのローレル/ヴェルマを演じるシャニン・ソサモンはハリウッドで何本も映画に出ている女優だが、これといった代表作がないので顔を見ても「あの人だ」とわかる人は少ないだろう。でもこれは映画の中でも、無名の新人を大抜擢という設定なので構わない。映画監督ミッチェル役のタイ・ルニャンも初めて見たカナダ人俳優だが、これは映画監督という裏方の役だからまだ許容できる。しかしハリウッドでも有名な俳優を演じているクリフ・デ・ヤングを、一体誰が知るだろうか。劇中劇でヴェルマの父を演じるイタリア俳優ファビオ・デスティを誰が知るだろう。この役には誰か本当に有名な俳優を連れてこないと、映画としての締まりがなくなってしまう。たぶん本当はそうしたかったけれど、それができなかったのだろう。

 映画は劇中劇と現実の事件、さらに撮影現場で起きるさまざまな出来事が錯綜して、映画を観ながら何がどうなっているのかさっぱりわからなくなってしまった。映画の冒頭とラストをつないで、中間を回想形式にするという構成になっているのだが、この仕掛けがわかりにくく、効果もよくわからない。現実の事件、その映画化作品、撮影現場の出来事という三重構造は、映画の中で混沌として、観ていてもそれが何なのかわからないことばかりだ。たぶん一度最後まで観た後、二度三度と繰り返し観れば内容は理解できると思う。問題はこの映画に、観客を二度目や三度目の鑑賞に誘うだけの魅力が感じられないことなのだ。僕はこの映画の筋立てすら理解できない。ヴェルマが何者なのか、ローレルは何者なのかがわからない。

 長いブランクの後に『シン・レッド・ライン』を撮ったテレンス・マリックのような例もあるが、モンテ・ヘルマンの復帰作はちょっと残念なものだと思う。

(原題:Road to Nowhere)

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2012年1月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:boid 宣伝:VALERIA
2011年|2時間1分|アメリカ|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.mhellman.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:果てなき路
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