三国志英傑伝

関羽

2011/11/29 京橋テアトル試写室
ドニー・イェンが三国志の英雄関羽を演じるアクション映画。
内容は中世騎士道ロマンスなのだ。by K. Hattori

Sangokueiketsuden  三国志で蜀漢の創始者劉備に仕える武将として知られる関羽は一時期、劉備のライバルである曹操の捕虜となっていた。このとき曹操は敵将である関羽を丁重に扱い、あわよくば自分の部下にならないかと何度も声をかけていたという。しかし関羽は主君劉備に対する忠義を貫き、曹操もその心根に感心して劉備のもとに戻る関羽を、同じく捕虜になっていた劉備の家族と一緒に送り出したという。映画『レッドクリフ』では敗走する曹操を関羽が見逃すエピソードが出てくるが、それは関羽がこの時の恩義を返すためだった。このあたりの経緯は、三国志を知る人なら誰もが知る常識なのだろう。『三国志英傑伝 関羽』は、そんな関羽と曹操の関わりを描いたアクション・スペクタクル映画だ。主人公の関羽を演じるのは現代中国でナンバーワンのアクションスター、ドニー・イェン。曹操を演じるのは中国映画のスター俳優チアン・ウェン。関羽と共に曹操のもとを逃れる劉備の婚約者・綺蘭を、スン・リーが演じている。

 この映画は三国志の関羽という恐ろしく男臭い男に、ヨーロッパの中世騎士道物語を演じさせているのが新しいアイデアだと思う。騎士道の基本は「高貴な婦人への愛」だ。騎士たちは命がけで冒険や名誉の戦いを繰り広げては、その成果を自分の愛する貴婦人に捧げた。愛の対象は高貴な身分を持つ女性なのだが、それは自分よりずっと身分の高い既婚女性であることが多かった。相手は身分の高い貴族の婦人であり、主君の妻であり、領主の妻だ。名の知れた騎士から愛を捧げられるのは貴婦人にとっても名誉なことだから、それを妻にしている夫も悪い気はしない。ただしこうした騎士道精神が具体的な不倫の関係に発展することもあるわけで、有名な「アーサー王の円卓の騎士」の物語は、騎士ランスロットがアーサー王の妃グィネヴィアと不倫関係になったことで悲惨な結末を迎える。ワーグナーの歌劇でも有名なトリスタンとイゾルデも、自分の伯父で主君でもある王の妃イゾルデと相思相愛になった騎士トリスタンの悲劇を描いた物語だ。

 この映画の関羽は、主君であり義兄でもある劉備の婚約者に恋をする。じつは関羽と彼女は同郷で、彼女が劉備と出会うずっと前から、関羽は彼女のことを秘かに愛してきたのだ。しかし彼女が劉備の妻と決まったからには、その恋を諦めねばならない。諦めねばと思っても、諦めきれない恋の辛さ。やがて関羽の愛は伝えるともなしに彼女に伝わり、彼女もまた関羽を愛するようになるのであった……。関羽はイメージとしては無骨な大男なので、今回の映画でドニー・イェンが関羽であることに違和感も感じたのだが、恋する関羽を演じるのに無骨な大男ではちょっと困る。むしろドニー・イェンのような、ハンサムな二枚目でしかも超強い!という配役が似合っている。アクションシーンは力強さよりスピード重視で、これも新しい関羽ではないだろうか。

(原題:関雲長 The Lost Bladesman)

Tweet
1月14日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町
配給:日活 宣伝:フリーマン・オフィス
2011年|1時間49分|中国|カラー|スコープサイズ|SRD
関連ホームページ:http://www.sangokushi-kanu.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:The Lost Bladesman
Blu-ray:The Lost Bladesman
ホームページ
ホームページへ