Coming Out Story

カミング アウト ストーリー

2012/01/12 サンプルDVD
トランスジェンダーの高校教師を取材していたら……。
「自分らしさ」巡るドキュメンタリー映画。by K. Hattori

Comingoutstory  京都で公立高校の教員をしている土肥いつきは、10年ほど前からトランスジェンダーであることをカミングアウトし、男性から女性に変身した名物教師だ。今も教壇に立って授業を行いつつ、各地で講演を行ったり、自分と同じトランスジェンダーの子供たちのための交流会を行ったりしている。本作『Coming Out Story カミング アウト ストーリー』は、日本映画学校の生徒だった梅沢圭が卒業製作作品として作ったドキュメンタリー映画を再編集したものだ。おそらくもともとこの映画は、土肥いつきの活動や人となりを取材しようというものだったのだろう。映画の冒頭は土肥が性転換手術(性別適合手術)を受けようとするところからスタートしているが、そのまま女性になった彼女(?)を取材していても、それなりに面白い映画になったかもしれない。だがこの映画は途中から、土肥の個人的な生活よりさらに意外な出来事が起きてそちらに脱線してゆく。映画を作り始める段階では、おそらくまったく想定していなかったであろうハプニングが、映画を引っかき回して行くのだ。

 映画が脱線していくのは映画がはじまって間もなくのことだ。映画製作に参加していたスタッフのひとりが、撮影が休みの間に突然実家に帰ってしまったのだ。現場から消えた若い男性スタッフは、トランスジェンダーの教師を取材中に自分自身もまたトランスジェンダーであることに気づいてしまったのだ。中学時代に女装をしていたこと。女装のまま近所を歩いて顔見知りに見とがめられ、それからはきっぱり女装をやめて過去を封印してしまったこと。しかし今でも拭い去ることができない、自分自身の性に対する違和感。心の中に澱のようにたまっていたものが、映画製作を通して突然表面に浮かび上がってきてしまう。彼はそのことに狼狽し、現場から逃げ出してしまったのだ。

 上映時間60分のドキュメンタリー映画だが、こういう映画を観ると「ドキュメンタリーは面白い!」と思ってしまう。ただしこれは出会い頭の交通事故や、テレビでもしばしば放送する世界びっくり映像みたいなもので、偶然の産物と言えば偶然に過ぎないのだ。しかしその偶然にしっかりとフォーカスを当てて、映画作品の中に拾い出していく作り手の神経の図太さは大したもの。監督が逃げたスタッフを実家まで追いかけ、家族の様子を取材しているのは天晴れとしか言いようがない。この反射神経がなければ映画は成立しなかったと思う。

 10数年前にトランスジェンダーである自分に気づき、10年かけて男性から女性になった土肥いつき。彼女を取材する中で自分もトランスジェンダーであることに気づき、戸惑いを隠せない若い映画スタッフ。土肥の主催するトランスジェンダーの交流会に参加する若者たち。そこでは自分自身の心の内面と格闘しながら、周囲の人たちと新たな関係を作り上げて行こうとする人々の姿がある。

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1月4日より1月27日まで公開予定 下北沢トリウッド
製作:日本映画学校
2011年|1時間|日本|カラー|HD
関連ホームページ:http://www.coming-out-story.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連書籍:セクシュアルマイノリティ―同性愛、性同一性障害、インターセックスの当事者が語る人間の多様な性
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