父の初七日

2012/02/15 松竹試写室
古式に則って父親の葬儀をする若い兄妹の物語。
伊丹十三の『お葬式』を思い出した。by K. Hattori

Chichi7days  昨年6月4日に公開が予定されていながら、3月に起きた東日本大震災の影響で公会が延期されていた台湾映画。内容的には地震とも津波ともまるで関係がない作品だが、大震災で大勢の人が家族や友人や家を失った中で、家族の葬儀をモチーフにしたコメディというのが状況に相応しくないと思われたのかもしれない。

 僕はこの作品から、伊丹十三監督のデビュー作『お葬式』(1984)を連想した。身近な人が亡くなって、結果として葬儀の中心人物になってしまった主人公が、葬儀のしきたりのあれやこれやに付き合って繰り広げるドタバタ劇。この映画に比べると『お葬式』の方が毒があって楽しめるのだが、それはこの映画が父を亡くした娘の視点で物語を作っているからかもしれない。『お葬式』の主人公は妻の父(岳父)の葬儀に関わっているという設定なので、故人に対して少し距離感があり、第三者として客観的な視点を常に失わない。描写が常にドライなのだ。一方『父の初七日』は、葬儀の当事者であるはずの兄妹が儀式に振り回されて当事者性を喪失してゆく様子が面白く、その中でふと父との思い出深いエピソードが挿入される部分のウェットさに見るべきものがあるように思う。

 死んだ父の葬儀をするというだけで、大きなストーリーというのは特にないのだが、葬儀という場にはそれぞれのお国柄が現れる。ほとんどの日本人にとって、映画に出てくる台湾式の葬儀はまったく馴染みのないものなのだろうから、それを見るだけでもこの映画は十分に面白いかもしれない。露天商の父親と、その後を継ぐ兄に対し、妹はひとりで都会の会社に勤めて世界中を飛び回る。こうした地方と都市の対比、台湾ローカルと世界の対比も、台湾の現在を反映したものなのだ。タイトルは『父の初七日』となっているが、これは仏教式の葬儀における「初七日」ではなく、映画の中で父親が亡くなってから葬儀が終わるまでの7日間のこと。台湾では暦に従って告別式の日が決めるのだが、さまざまなしきたりがあって死後3日から60日ぐらいは葬儀にかかってしまうのだという。この映画は7日で葬儀が終わったが、これは短い方なのかもしれない。葬儀をしている間、遺体は葬儀社の冷蔵庫の中で保管されるか、自宅で葬儀をする場合は遺体用冷蔵庫のレンタルがある。映画の中の葬儀は自宅葬なので、夜中に冷蔵庫が到着する場面があるのだが、その冷蔵庫が具体的にどんなものかはわからなかった。ちょっと残念。

 遺族は葬儀を取り仕切る道士の指示に従って、葬儀の間にしばしば棺に取りすがって泣かなければならない。このあたりは映画の中でも笑いを誘うドタバタで、食事の途中であろうが寝ている最中であろうが、「今だ泣け!」と指示されれば遺族用の頭巾を頭に被せて棺にしがみつく。横から見ると滑稽この上ない儀式なのだが、こうして遺族に悲しむ暇を与えないのが葬儀の役目なのかもしれない。

(原題:父後七日)

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3月3日公開予定 東京都写真美術館ホール、銀座シネパトスほか
配給・宣伝:太秦
2009年|1時間32分|台湾|カラー|ビスタ
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