トテチータ・チキチータ

2012/02/24 松竹試写室
福島の震災被災地を舞台にしたファンタジックなヒューマンドラマ。
人と人が信じ合うことで生まれる新しい世界。by K. Hattori

Totechita  借金まみれになって自殺を考えていた木村は、不思議な少女に出会ったことをきっかけに、生きることを考え始める。怪しげなリフォーム会社に就職し、向かった先は福島。あの日で出会った少女が、自分に福島に行くよう指示していたように感じられるのだ。福島でインチキな家屋修繕を売り込むため、認知症になりかけているというおばあさん宅に乗り込んだ木村。やがて彼はそのおばあさん、福島にやって来た不思議少女の凜、被災地から非難してきた高校生の健人と、不思議な疑似家族を作ることになるのだった……。

 東日本大震災後の福島を舞台にし、物語の中にも地震や津波、放射能汚染の問題などが影を落としている映画だが、映画の企画そのものは震災よりずっと前にスタートしていたのだという。2011年夏から撮影を開始させようと準備している最中に起きたのが、3月11日の東日本大震災。一度は映画作りを諦めかけたものの、震災後の福島の姿を物語に取り込むことで映画作りは再始動。映画の中では太平洋戦争の記憶が大きなテーマになっているが、この映画ではそれが震災という出来事とオーバーラップして、不思議な世界観を生み出すことになった。この映画は戦争を直接描いているわけではないし、震災を直接描いているわけでもない。震災という今日の問題を通して戦争を描き、戦争という過去の記憶を通して震災という今の問題をあぶり出す。半世紀以上を隔てた2つの出来事が、互いに共鳴し合いながら今この時を生きる人間たちの人生に大きな影響を与えていくのだ。

 血の繋がりのない複数の人物たちが、本物の家族に勝るとも劣らない疑似家族として結束する物語だ。疑似家族が出てくる映画は山のように作られているが、この映画がユニークなのは、現実の年齢や境遇とは関係なしに、登場する人々の家族内での役割が決まること。認知症になっている最高齢の百合子が、疑似家族の中では一番年齢の若い幼い娘(5〜6歳ぐらい)になっている。東京から福島に引っ越してきた小学生の凜が、この娘のお母さん。中年男の木村はお兄ちゃんで、高校生の健人がお父さん。この4人は前世で家族だったと凜は説明し、百合子の言動もそれを証明しているように見える。しかし映画の最後に至るまで、木村や健人にはそれが自分のこととしては実感できない。前世の記憶が蘇るわけではなく、不思議な絆を証明する何かしらの事件が起きるわけでもない中で、半信半疑のまま家族の一員になるのだ。

 これは「信じる」ということについての映画だと思う。木村や健人は自分たちでは何もわかっていないが、凜と百合子を「信じる」ことで本当の家族になった。だが凜の言葉を「信じる」ことができない人たちもいる。彼らはその結果、自分たちがその目で見て、耳で聞いたことすら信じなくなる。つまり自分自身すら、信じることができなくなってしまうのだ。

Tweet
3月10日公開予定 フォーラム福島、ポレポレいわき、会津東宝
4月7日公開予定 銀座シネパトス、 横浜ニューテアトル
配給:アルゴ・ピクチャーズ
2012年|1時間35分|日本|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.totecheeta-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連商品:商品タイトル
ホームページ
ホームページへ