アーティスト

2012/03/06 シネマート六本木(GAGA試写室)
サイレントからトーキーに移行するハリウッドの物語。
アカデミー賞5部門受賞作。by K. Hattori

Artist  1927年、ハリウッドの劇場で行われた新作映画のお披露目で、満場の観客たちから拍手喝采を浴びているのは、主演スターのジョージ・ヴァレンティン。劇場前でファンの女姓にキスされて上機嫌の彼は、後日撮影現場にその女姓が現れてビックリ。彼女は女優志望の踊り子ペピー・ミラー。互いに好意を持った二人だったが、既婚者のジョージは彼女に紳士として振る舞うのだった。それから2年後。ペピーは新人女優としてめきめきと頭角を現していくが、トーキーの時代に背を向けるジョージはひとりサイレント映画にこだわり続けて世間から忘れられていく。彼が自ら監督主演した大作は興行で大失敗。世界恐慌による株価暴落で破産状態になり、妻にも去られて、ジョージはわずかに残った資産を切り売りしながら酒に溺れる。しかしそんな彼の姿を、ペピーは影から見守り続け、彼の支えになりたいと願うのだった……。

 今年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞、音楽賞、衣装デザイン賞の5冠を果たした話題作。サイレントからトーキーに移り変わって行く映画業界の様子を、当時作られていたサイレント映画の技法で描くという異色の作品だ。1920年代のサイレント映画と言えば、スクリーンサイズはもちろんスタンダード(1:1.33)。サイレント映画はまったくの無音ではない。録音技術がない時代にはオーケストラによる演奏が付いていたし(これは劇中でも再現されている)、サイレントからトーキーに移行する際には、サイレント映画に音楽や一部の効果音を入れたサウンド版が作られている。『アーティスト』は映画全体のほとんどの場面がサウンド版で、ごく一部がパートトーキーという趣向だ。

 サイレントからトーキーに移行する映画業界の内幕話としては、『雨に唄えば』(1952)が有名。『アーティスト』の導入部は『雨に唄えば』をそのまま下敷きにしていて、わかる人にはそれがすぐわかる仕掛けになっている。『雨に唄えば』も『アーティスト』も、1927年に新作の完成披露を行うシーンからスタートしているのだ。またスター俳優が新人女優と愛し合うようになるが、スターは没落して新人女優が逆に売れっ子になるという話は『スタア誕生』(1937、1954、1976)。他にもさまざまな映画が引用されているので、この映画は古い映画が好きな人ほど楽しめると思う。物語のベースは『スタア誕生』。しかしヒロインがスター俳優の援助なしに成功して行くあたりは、やはり現代の映画だと思う。その分だけ主人公たちの関係が遠くなり、普通の形では恋愛が成立しなくなるのだが、そこをあの手この手でつなぎ止めていくのがこの映画の腕の見せ所だろう。

 観ていてとても幸せになれる楽しい映画だったが、これがアカデミー作品賞と言われると「う〜む」という感じ。だってこの映画をマネすることなんて、もう誰にもできないではないか!

(原題:The Artist)

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4月7日公開予定 シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、シネマライズ、シネリーブル池袋
配給:ギャガ
2011年|1時間41分|フランス|カラー|スタンダード|ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://artist.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Artist
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