だれもがクジラを愛してる。

2012/06/06 東宝東和試写室
1988年アラスカで起きたクジラ救出の実話を映画化。
「大人の事情」がクジラを助ける。by K. Hattori

Daremoga  冷戦末期の1988年。日本は昭和天皇の容態悪化でさまざまなイベントや派手な広告などが自粛されていたが、それと同じ頃、アメリカのテレビ局がアラスカ発の小さなニュースを配信した。それは3頭のコククジラが、外洋に出るタイミングを逃して湾内に閉じ込められているという話題。クジラたちは氷原にあいた穴で息をしているが、やがてその穴もふさがってしまうだろう……。このニュースがどういうわけか、アメリカ人の心の琴線に触れた。クジラのいる湾に近い小さな町にはアメリカ中のマスコミが集まり、クジラを救おうとする自然保護団体や、この騒ぎに便乗してPRを行おうとする企業、政治家たちの思惑が交錯して行く。

 今から四半世紀近く前に起きた実話をもとにした映画で、原作はトム・ローズの「Freeing the Whales」というノンフィクション。(この本は映画公開に合わせて「だれもがクジラを愛してる。」という題で邦訳出版。)映画は実話をもとにしながらエピソードを整理し、人物の名前を変え、複数の人物を統合し、新たな人物を創作しつつ、米ソの両首脳まで巻き込んで世界的事件となったこのクジラ救出作戦の全貌を再現している。

 大自然の中で生きる人々の暮らしと、氷に閉じ込められたクジラ、それを救おうと世界中から集まってくる人々など、これを「美談」にしてしまう要素は山ほどあるのだが、映画はそのあたりをもう少し生臭い話にしている。最終的には「美談」に話を落としていくのだが、それまでの紆余曲折には、人間たちの欲得や打算が絡まり合っているのだ。普段は見向きもされない地方発のスクープで、テレビ局内での出世を願うレポーター。クジラ殺しの汚名を返上したい先住民。環境負荷の高い事業者のイメージを払拭すべく、クジラ救出に全面協力を名乗り出る石油会社の重役。知事選挙のイメージアップにクジラを利用しようとする地元政治家は州兵を動員し、大統領まで来たるべき選挙のイメージ戦略としてこの救出作戦をバックアップ。ソ連首相も米ソの雪解けムードをアピールするため、自国の砕氷船を現地に送り込む。

 映画の中で一番スリリングなのは、ドリュー・バリモア扮する自然保護団体のメンバーが、石油会社の重役や大統領補佐官につるし上げを食うシーンかもしれない。石油会社や大統領はクジラが死ねば大きなイメージダウンになるため、何が何でもクジラを助けようと血まなこになっている。しかし環境保護団体はクジラが死んでも、それを自分たちの宣伝に利用するに違いない。(環境保護団体による国際的な反捕鯨運動などを見ていると、確かにそういう面がなきにしもあらずだ。)この映画はクジラ救出作戦という大プロジェクトの中に隠された「大人たちの事情」を、かなりあからさまな形であぶり出して行く。甘さの中に苦みや渋みが感じられる、大人向けスイーツのような映画だ。

(原題:Big Miracle)

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7月14日公開予定 TOHOシネマズシャンテ
配給:東宝東和 宣伝:フリーマン・オフィス、スターキャスト・ジャパン
2012年|1時間47分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://love-whale.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:だれもがクジラを愛してる。
サントラCD:Big Miracle
原作:だれもがクジラを愛してる。(トム・ローズ)
関連DVD:ケン・クワピス監督
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