かぞくのくに

2012/07/10 京橋テアトル試写室
北朝鮮と日本の間で離れ離れになった在日コリアン家族の物語。
内容のほとんどは監督の実体験だという。by K. Hattori

Kazokunokuni  在日朝鮮人2世のヤン・ヨンヒ監督が、ドキュメンタリー映画『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』や『愛しきソナ』に続いて撮った、初のフィクション映画。フィクションと言っても、映画に描かれている内容のほとんどは、監督自身が体験した実話にもとづいている。映画的な脚色も随所に施されているようだが、ストーリーのアウトラインや個々のエピソードの多くは実際にあったことの再現だという。

 1997年夏。日本語学校で講師をしているリエは、25年ぶりに兄ソンホと再会できることを心待ちにしていた。兄は帰還事業で北朝鮮に渡り、それ以来家族と手紙のやりとりはあっても一度も日本には戻ってきていない。今回は病気治療のため、3ヶ月の期限付きで日本にやってきたのだ。だがその兄には、ぴったりと北朝鮮側の監視人が貼り付いていた。病院での検査を終えた後、25年前の友人たちと再会し、酒を酌み交わす兄ソンホ。だが次の夜ソンホはリエに、北朝鮮の諜報活動の手伝いをする気はないかと切り出す。突然の話に驚きながら、それを拒絶するリエ。翌日、ソンホの検査結果が出た。医師は手術は可能だと言いながら、3ヶ月の期限付きでは経過観察ができず、治療を引き受けることはできないと言うのだ。医師の言葉に絶句する家族たち。だがその翌日、さらに思いがけない知らせが家族たちに届けられるのだった……。

 朝鮮半島の南北分断にまつわる悲劇というのは韓国映画に時々出てくる大きなテーマだが、それが決して海の向こうの遠い外国の話や対岸の火事ではなく、この日本でも起きている悲劇だということがわかる作品だ。この映画は実話がベースだと言うが、このストーリーの悲劇性は二重三重に手が込んでいる。朝鮮総連の幹部職員である父親を持ったがゆえに、16歳で見も知らぬ「祖国」へと渡ってった兄。その兄が25年ぶりに帰宅したというのに、「病気を治して帰国するのがお前の使命だ」などと形式的なことしか言えない父。この家の中では北朝鮮の悲惨な状況について、話すことがタブーになっている。父は息子を北朝鮮に送ってしまったことに、大きな負い目を感じているはずだ。だが総連幹部である父は、帰還事業で自分の息子以外にも多くの若者たちを北朝鮮に送っている。「自分の息子も北朝鮮にいる」ということが、父にとってはある種の免罪符になっている面もあるはずだ。だから家の中では誰も父を責めない。責められない。彼らはその状況を受け入れた上で、生きていくしかないのだ。

 キャスティングは日本人俳優で固められているが、北朝鮮から来た監視人を演じているのは、『息もできない』で監督主演兼務したヤン・イクチュン。北朝鮮は非人間的で独裁的な国家だが、それを構成している個々の人間たちは、感情を持った生身の人間であることが、彼の存在から伝わってくる。この監視人は、映画のために創作された人物だという。

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8月4日公開予定 テアトル新宿、109シネマズ川崎
配給:スターサンズ 宣伝協力:ザジフィルムズ
2012年|1時間40分|日本|カラー|16:9|HD
関連ホームページ:http://kazokunokuni.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:かぞくのくに
原作:兄〜かぞくのくに
関連DVD:ヤン・ヨンヒ監督
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