王様とボク

2012/07/10 京橋テアトル試写室
スーパー戦隊のヒーローと仮面ライダーが夢の共演ですが……。
いまひとつ煮え切らない印象。by K. Hattori

Osamatoboku  18歳の誕生パーティの夜、ミキヒコは恋人のキエと結ばれる。だがその日なぜか思い出すのは、幼い子ども時代に親しかった友達モリオのこと。「あいつは今どうしてるんだろうか?」。小学校入学を目前にした12年前、事故で意識を失ったまま目覚めることがなかったモリオ。ミキヒコは彼のことを、これまで一度だって忘れたことがない。だがその翌日、ある病院で12年間意識不明だった少年が目覚めたというニュースが流れて世間は騒然となる。「モリオだ!」。ミキヒコとキエは病院に行くと、病室を抜け出したモリオを見つける。ミキヒコの声を聞いたモリオは、「ミキちゃん」とつぶやくのだが……。

 やまだないとの同名コミックを、原作者のやまだないと本人と前田哲監督が脚色した上で映画化している。原作は未読だが、内容は映画向けにアレンジしてあるとのこと。映画としての見どころは、出演している若い俳優たちの顔ぶれにある。ミキヒコを演じる松坂桃李は「侍戦隊シンケンジャー」のシンケンレッド役でデビュー以降、映画やテレビドラマに次々出演して最近頭角を現している若手ナンバーワン俳優。モリオを演じるのは「シンケンジャー」と同時期に「仮面ライダーW」に主演した俳優で、この映画ではくしくも特撮ヒーロー番組の2大ヒーローが変身しないまま夢の共演をはたしているのだ。ミキヒコやモリオの幼なじみトモナリ役には、「シンケンジャー」のシンケンブルー役だった相葉裕樹。「シンケンジャー」をわりと真面目に見ていた僕などは、松坂桃李と相葉裕樹が共演しているだけでもう軽い興奮状態。しかしトモナリがふて腐れた顔でミキヒコと会話しているシーンを見たりすると、「流ノ介、殿に向かってその態度はなんだ!」という気持ちになってしまったりして……。キエを演じるのは『ヒミズ』の二階堂ふみだが、今回演じたキャラクターは『ヒミズ』のヒロインとちょっとかぶっているように思う。

 この映画では子どもから大人になっていくミキヒコと子供のままで成長を止めてしまったモリオの再会が、自分の意志とは無関係に「大人になってしまう」ことの悲しさを浮き上がらせていく。これはミキヒコの年齢があと5歳若ければ成り立たず、あと5歳年上でも成り立たない話なのだ。ミキヒコは目覚めたモリオに手を差し伸べて、自分が彼を救わなければならいと思う。でもどうやって? ミキヒコはモリオのように再び子供になることはできないし、かといって彼のために十分な手立てが尽くせるほどの大人でもない。子供でいたいと思ってもそれは許されず、大人になりたいと思ってもそれに満たないもどかしさだ。

 ストーリーには現実味がなく、全体に浮ついてぺらぺらな印象。物語の枠組みだけが前に出て、登場人物たちの掘り下げが足りず、ドラマとしての旨みが薄いのだ。モリオとミキヒコの関係を補強するため、キエやトモナリのエピソードにもう少し厚味を付けてほしかった。

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9月22日公開予定 ユナイテッド・シネマ、シネマート
配給:United Entertainment Inc.
2012年|1時間24分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.o-boku.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:王様とボク
関連DVD:「王様とボク」 ナビゲートDVD with 菅田将暉 松坂桃李 相葉裕樹
原作:王様とボク(やまだないと)
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