白雪姫と鏡の女王

2012/07/13 シネマート六本木(スクリーン4)
ジュリア・ロバーツとリリー・コリンズ主演の白雪姫。
衣装の石岡瑛子はこれが遺作。by K. Hattori

Mirrormirror  グリム童話やディズニーアニメで有名な「白雪姫」の物語を、ターセム・シン監督が映画化した作品。白雪姫を演じるのは『プリースト』や『ミッシングID』のリリー・コリンズだが、白雪姫を殺そうとする女王をジュリア・ロバーツが演じているのが見どころだ。白雪姫の義母でありながら、国王が行方不明になった後は王位継承者である白雪姫を幽閉し、王国運営の実権を握って贅沢三昧の暮らし。湯水のような散財で国の財政が傾けば国民に重税を課し、それでも破綻が目前に迫れば、自分の息子のような年のイケメン王子をたぶらかして結婚しようと目論む。この傲慢でタカビーな年増女を、ジュリア・ロバーツがじつに楽しそうに生き生きと演じている。女王の溌剌とした明るい表情に対して、常に女王にかしずいている侍従がいつでも困った顔をしているのがうまいコントラスト。演じているネイサン・レインが、困った顔は困った顔なりにそれを楽しんでいる様子が伝わってくるのも面白い。

 同時期に『スノーホワイト』も公開されてどういうわけか白雪姫の競作になっているが、最近はディズニーアニメにしろ何にしろ、古いおとぎ話に出てくる受け身のヒロインはまったくお呼びじゃない状態になっている。お姫さまは白馬の王子の救出をただ待つだけでなく、自らの手で自分の運命を切り開いて行く行動力が求められるのだ。この『白雪姫と鏡の女王』では白雪姫が義母の言いなりに軟禁されている受け身の少女として登場するが、森の中で七人の小人たちに出会ってからは、自らの手で戦い独り立ちして行く。こうして白雪姫が自立する若い女性になってしまうと、彼女を救うはずの王子はまったく存在意義がない添え物になってしまう。

 そこでこの映画はストーリーをひとひねりして、裕福なイケメン王子(ただし頭は空っぽのバカ)を白雪姫の義母である女王が誘惑するというサイドストーリーを加える。年増の女王に誘われてなびくのだから、この王子は頭空っぽのバカでちょうどいいのだ。バカ王子が女王に懐いてじゃれ回り、それを女王が大喜びしながら眺めるという図はイヤラシイのだが、女王をジュリア・ロバーツが演じるとそこから乾いた笑いが生み出される。彼女はこの映画の中で自分に求められているのが、記号やオブジェとしての役目でしかないことを十分自覚しているのだ。

 登場人物の多くが記号やオブジェになっているこの映画の中で、唯一生身の人間を感じさせたのはジュリア・ロバーツが一人二役で演じる鏡の中の女王(魔法使い)だ。女王の分身でありながら、陽気な女王に対してひたすら陰気で物静か。彼女が操り人形を使って白雪姫に本気で襲いかかるシーンは、この映画の中で一番恐ろしい場面。なぜ彼女が白雪姫を襲わねばならないのか、その理由が不可解だからこそ恐ろしい。リアルな人間とは、不可解なものなのだ。

(原題:Mirror Mirror)

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9月14日公開予定 丸の内ルーブルほか全国ロードショー
配給・宣伝:ギャガ パブリシティ:レオ・エンタープライズ、共同PR
2012年|1時間46分|アメリカ|カラー|ビスタ|ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://mirrormirror.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:白雪姫と鏡の女王
サントラCD:Mirror Mirror
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