人生、いろどり

2012/07/27 ショウゲート試写室
葉っぱビジネスで大成功した徳島県上勝町の実話を映画化。
出演者の顔ぶれはすごく豪華。by K. Hattori

Jinse_irodori  山間部の小さな町が料亭などで料理のあしらいに使う「つまもの」を売るビジネスを考案し、まったくゼロから販路を拡大して今では年商2億5千万円。そんな徳島県上勝町の実話を映画化した作品だ。出演は吉行和子、富司純子、中尾ミエ、藤竜也など、実績のあるベテランがずらりと顔を揃えた。こうした主役クラスを支える俳優も豪華。撮影には上勝町が全面協力しているが、出演者が立派すぎて、何十年も町で農家をやっている人にはとても見えないのが欠点と言えば欠点だろう。しかし映画を観れば上勝町のビジネスの成り立ちや、新しいビジネスを立ち上げる際の苦労が一目でわかる。しかしそれだけなら、テレビのドキュメンタリー番組で十分。この映画のオリジナルは、時代の流れで変わってゆかざるを得ない日本社会の中で、変わらずに残る人間同士の絆を丁寧に描いていることなのだ。

 徳島県中央部の山間地にある上勝町。ミカン栽培が主要産業だったが、大寒波によるミカン全滅で町は存亡の危機に立たされていた。小規模に作っていた野菜を青果市場に出荷しても、値段が付かず売れ残ることも多い。村からは人々の流出が止まらない。上勝の若い農協職員として農家からの批判の矢面に立たされていた江田は、ある日居酒屋で見た光景をヒントに新しいビジネスを思い立つ。それは料理を飾る「つまもの」として、上勝の葉っぱを売ろうというもの。だが説明会に集まった農家は、このアイデアにまったく乗ってこない。結局このアイデアに協力してくれるのは、徳本家の薫ばあちゃんと、その幼なじみの花恵ばあちゃんだけだった。だが薫と花恵が集めた葉っぱは、市場で買い手が付かず「こんなものはゴミ」と言われる始末。しかし江田たちはあきらめない。町に戻っていた路子も加わって、実際につまものがどのように使われているかを料亭でリサーチすることにしたのだが……。

 映画は上勝町がどん底から新ビジネスを軌道に乗せて成功するまでのサクセスストーリーを背景に、この変化の中で自分もまた変化して行こうとする人たちと、変化を受け入れられず抵抗する人たちの葛藤をドラマの核にしている。町が受け入れようとしている変化は、一体何のための、誰のための変化なのか。これは「お金がないから何とかしなければ」という話ではない。映画の序盤で農協職員の江田は、「お前の仕事は補助金をもらってくることだ!」と農家から突き上げを食らう。これは「お金がないからよそから持ってこい」という話だ。そこで彼が行政に掛け合ってまんまと補助金をせしめてくれば、確かにそれで町の直面する危機は回避されただろう。でもそれでは何も変わらない。町は変わらず、人も変わらない。それでは人を感動させる物語は生まれない。

 主演の三女優は泥まみれの熱演だが、一番面白いのは藤竜也が演じる葉っぱビジネス反対派のオヤジだ。それはたぶん、この人物が映画の中で一番大きな変身を見せるからだと思う。

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秋公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ショウゲート 宣伝:アルシネテラン
2012年|1時間52分|日本|カラー|ビスタ|DTS
関連ホームページ:http://www.irodori-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
参考図書:そうだ、葉っぱを売ろう! 過疎の町、どん底からの再生
関連図書:いろどり おばあちゃんたちの葉っぱビジネス
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