くろねこルーシー

2012/08/09 シネマート六本木(スクリーン3)
貧乏占い師が3匹のクロネコに出会うことで運を開く。
昭和末期を舞台にした家族の物語。by K. Hattori

Kuroneko  サラリーマンをやめて占い師に転業したものの、これといった売りもなく、客あしらいも下手な鴨志田賢は38歳。妻子はいるが現在は別居中。他人の不安や悩みの相談に乗る占い師のくせに、鴨志田自身が私生活で問題を抱え、さまざまな迷信に右往左往してばかりいるダメな男なのだ。そんな鴨志田の部屋に、ある日2匹の子猫がやって来る。しかしそれは、鴨志田が忌み嫌う黒猫だった。はじめは迷惑がっていた鴨志田だったが、やがて子猫やその母猫に情も移って世話をするようになる。仕事場に子猫を連れて行けば、「くろねこ占い」が大受けして一躍売れっ子の占い師に。だがそんな鴨志田の前に、猫の飼い主だという男が現れたのだった……。

 今年1月からローカル9局で放送されて好評だった(らしい)連続ドラマの映画版。ドラマ版は山本耕史と京野ことみが主演だったが、映画版はドラマ版で山本耕史が演じた主人公の父親を主人公にしている。つまりドラマ版「くろねこルーシー」のプリクエル、エピソード0が、劇場版『くろねこルーシー』なのだ。映画では冒頭とラストに父親の墓参りをする山本耕史と京野ことみが登場し、ドラマ版と映画版をつなぐブリッジにしている。ただし現在の場面から、回想シーンに入っていく部分がわかりにくい。ドラマ版を見ている人には「塚地武雅が山本耕史の父」という関係がインプットされているのだろうが、この映画だけ独立した作品として観ると戸惑ってしまう。物語の舞台は昭和60年前後だと思うが、それを象徴する風俗描写があるわけでもない。これは多少不格好ではあっても、回想に入ったところでは「昭和○○年」などとテロップを入れて欲しかった。

 ドラマ版を見ていないので作品世界の雰囲気がよくわからないのだが、全体に貧乏くさくて暗い話だなぁと思う。一番よくわからないのは主人公の占い師が、真冬にも関わらず狭いアパートの部屋の窓を開けっ放しで寝ていること。ネコを出入りさせるという物語の上での必要性があってやっていることなのだが、主人公は当初ネコ嫌いという設定だし、開け放った窓のすぐ横で電気ストーブが赤い光を放っているというのはあまりに不自然だろう。主人公の占い商売は赤字だという話だが、その赤字をどうやって補填しているのか。別居している妻子はどうやって生計を立てているのか。経済的に大変だということは想像が付くが、それが具体的にどのぐらい大変なのかがわからない。たぶんこのあたりを細かく詰めていないことから、「経済的な困窮」をビジュアルで表現しようとする演出に向かい、物語が必要以上に貧乏くさくて暗いものになっているのではないだろうか。

 悪い映画ではないと思うのだが、なぜ今この時代にこの映画を作らねばならないのかという必然性が見えない作品でもある。もちろん「家族が一番」というテーマには、時代を超越した普遍性もあるのだろうが……。

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10月6日公開予定 シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町
配給:AMGエンタテインメント 宣伝:マジックアワー
2012年|1時間47分|日本|カラー|16×9ビスタ|5.1chステレオ
関連ホームページ:http://www.kuroneko-lucy.info/movie/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
ドラマ版DVD:くろねこルーシー DVD-BOX
ノベライズ:くろねこルーシー ~はじめての子育て
コミック版:くろねこルーシー
児童書版:くろねこルーシー 幸福をはこぶネコ
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