高地戦

2012/08/30 シネマート六本木(スクリーン3)
朝鮮戦争末期の膠着状態の中で兵士が次々に死んでゆく。
少しウェットな部分もあるが見応えあり。by K. Hattori

Kochisen  1950年6月から53年7月まで続いた朝鮮戦争には、ほぼ4つの段階があったと言われている。戦争勃発直後の70日間、北朝鮮軍が圧倒的な優位で朝鮮半島をほぼ制圧し、韓国軍と国連軍を半島南端のごく狭い一角にまで追い詰めるまでが第1段階。続く第2段階は、国連軍が9月半ばに仁川への奇襲上陸に成功して大反攻を開始し、韓国軍と国連軍が朝鮮半島大部分を支配下に置くまで。第3段階は、10月下旬に中国軍が北朝鮮軍と合流し、韓国軍と国連軍を38度線付近まで押し戻した。そしてここから、長い長い第4段階がはじまる。51年3月頃からは両軍がにらみ合う膠着状態に陥り、7月からは停戦に向けて両者の協議が始まった。しかし具体的な停戦に至ることなく協議は難航し、前線では両軍兵士による出口の見えない泥沼の戦いが繰り返されていた。

 物語は1953年初頭からはじまる。前線の部隊に北朝鮮への内通者がいるらしいという情報を得て、防諜隊のカン中尉はエアロK(通称エロック高地)で戦うワニ中隊に合流した。そこには2年前に戦場で生き別れになった友人、キム中尉もいた。だが精悍に引き締まったキムの顔に、かつての青白い学徒兵の面影はない。戦場での2年の月日が、ふたりを歴戦の強者に鍛え上げていた。だがエロック高地は生き残るのに厳しい場所だ。両軍は日替わりで高地の支配権を奪い合い、戦闘のたびに大量の兵士たちの血が流され命が犠牲になっていたのだ。停戦は今日か明日か明後日か。だが停戦のその日までは、互いが銃を突きつけて殺し合わねばならない。連日連夜同じ高地を取ったり取られたりしているうちに、南北両軍の間には奇妙な連帯感のようなものが芽生え始めていた。

 戦闘シーンには迫力があるが、エピソードがすべてどこかで見たことがあるようなものばかりなのが残念。例えば敵の狙撃手が女性だったというエピソードはキューブリックの『フルメタル・ジャケット』だし、敵味方両軍で同じ歌を唱和するのは『ビルマの竪琴』だ。物語としては、主人公のカンは防諜任務でワニ中隊に来たのだから、これをもう少し上手く使えばドラマが二重底になって面白かっただろう。しかし映画では疑惑の真相をあっと言う間に観客に見せてしまい、カンとキムが抱えている葛藤や矛盾が線の細いものになってしまった。主要な登場人物のポジションとしては、中隊の実質的なリーダーであるシン大尉が、どうにも若すぎるように感じられる。もちろん実際の朝鮮戦争では、激戦の中で若年のリーダーが出現することもあったのかもしれない。しかしこの映画で、このシン大尉が若ければならない理由が僕にはよくわからない。彼の若さが必要とされるエピソードが、映画の中に存在しないからだ。これはカンやキムと同年配の男であっても話は通じるはずだし、何ならこの人物はキムと合わせてしまってもよかったはずだ。

(英題:THE FRONT LINE)

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10月27日公開予定 シネマート新宿、シネマート六本木
配給:ツイン 宣伝:樂舎
2011年|2時間13分|韓国|カラー|1:1.85
関連ホームページ:http://www.kouchisen.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
韓国版DVD:高地戦
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