ワンナイト、ワンラブ

2012/09/26 ショウゲート試写室
実在するロック・フェスティバルを舞台にした恋の物語。
半分ドキュメンタリー。半分フィクション。by K. Hattori

Onenight_onelove  毎年7月にスコットランドのパース・アンド・キンロスにある空港跡地で開催される、イギリス最大級のロック・フェスティバル「T・イン・ザ・パーク」。本作はそのロック・フェスに参加した若い男女のミュージシャンが偶然出会い、喧嘩や仲直りを経て恋人同士になるまでを描くラブストーリー。ミュージカル映画ではないものの、映画の最初から最後まで音楽がたっぷり盛り込まれた楽しい作品になっている。劇中に登場する「T・イン・ザ・パーク」は本物。2010年のフェスティバルにスタッフとキャストが乗り込み、来場客などと同じように現場にテントを張って5日間で撮影を終えたのだという。そんなわけで本作の物語に関係のない部分は、本物のロック・フェスティバルのドキュメンタリー映像そのもの。映画を観ながら、本物のロックフェスに迷い込んだような気分が味わえる作品になっている。

 映画はロックフェスの会場に、人気ユニット「ザ・メイク」のメンバー、アダムとタイコが到着する。彼らを目ざとく見つけて冷やかしたのが、ガールズ・バンド「ダーティー・ピンクス」のメンバー、モレロたち。腹を立てたアダムはモレロからコートをひったくり、モレロはアダムのギターを振りかざす。だがその場にいた会場警備員が、ふたりに割って入る。「仲良くするにはこれが一番だ」と言って、アダムとモレロの手を手錠でつないだ警備員は、そのままふたりを置いて立ち去ってしまった。手錠を外すこともチェーンを切ることもできないまま、ふたりは否応なしに一緒に行動することに。ところがそこにふたりの恋人も現れて、話はいよいよややこしいことになってしまうのだった……。

 最初は衝突している者同士が何らかの理由で一緒に行動しなければならない羽目になり、最初は何とかして相手から離れようとするのだが、やがて和解して、それまでになかった友情や恋愛感情のようなものが芽生えるという定番の設定。反目する者同士を手錠でつないでしまうのは『手錠のまゝの脱獄』があるし、これにアイデアを借りてずいぶん多くの映画やテレビドラマが作られていると思う。つまり『ワンナイト、ワンラブ』のユニークさは、ラブストーリーとしての面白さにあるわけではない。手垢の付きまくった定番の物語に、ロックフェスの実際の会場での撮影という特殊な状況を加えることで、思いがけない化学反応が生じているのがこの映画なのだ。ロックフェスのドキュメンタリー映像と、「手錠でつながれた仲の悪い男女が恋をする」という荒唐無稽のフィクションが組み合わされることで、この映画はただのドキュメンタリーでも、ただのラブコメディでもない別のものになった。

 この映画の面白さは、「ロックフェスの会場で劇映画を撮る」という仕掛けが生み出したもの。でもこの映画の中では、その仕掛けが存分に効果を上げているのだ。

(原題:You Instead)

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11月3日公開予定 渋谷シネクイントほか全国ロードショー
配給:グラッシィ 宣伝:ELECTRO86
2011年|1時間20分|イギリス|カラー|16:9ヴィスタ|ステレオ
関連ホームページ:http://glassy.co/movie/onenight-onelove/
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