名無しの十字架

2012/11/26 TCC試写室
都市伝説と化している「トラVS人間」のビデオを探す素人探偵。
横浜を舞台にしたフィルムノワール。by K. Hattori

Nanashino  三上は小さなプロレス専門ショップの経営者。たちの悪い借金で身動きが取れなくなりかけていた彼は、馴染みのコレクターに依頼されて「トラVS人間」の実戦ビデオを探し始める。報酬は3千万円と超破格だが、それはこのビデオ探索にそれなりの危険が伴っていることを意味していた。格闘技愛好家の間で、伝説として語られているトラと人間の戦い。雲をつかむような都市伝説の類だが、三上は以前友人の河井から「ビデオを見たという人間に会った」という話を聞かされたことがあった。三上は河井を訪ねてビデオについての詳しい話を聞き、トラと戦ったのがキックボクサーだったとアタリを付ける。ビデオが製作されたのは10年ほど前らしい。同じ時期に、行方不明になっているキックボクサーを探し始めた三上は、古い専門誌のバックナンバーから「新崎真太郎」という天才ボクサーが失踪していることを突きとめるのだった。新崎はどこに消えたのか? トラと戦ったのは本当に新崎だったのか? 三上のビデオ探しは、10年前に封印された社会の深い闇を暴き出していくことになる……。

 キックボクシングの元世界チャンピオンでもある小林聡が郷一郎の同名小説に惚れ込んで映画化権を取得し、自ら企画者に名を連ねると共に、映画の第2の主役とも言うべき元キックボクサー新崎真一郎を演じているサスペンス映画。主人公の三上が「トラVS人間」のビデオを探すというディテクティブ・ストーリー(探偵もの)の形式になっていて、秘められた過去、不遇な男と女、大きな秘密を抱えた女、巨悪に翻弄される主人公たちなど、横浜を舞台にフィルムノワール風のドラマが展開して行く。基本的には低予算映画であり、もう少したっぷりお金が使えれば……という残念なところもたくさんあるのだが、探偵ものやフィルムノワールという「型」にはめ込むことで、低予算の弱味を少しカバーできていると思う。このあたりは「型」が持つ強みだろう。三上を演じた神尾佑が、半分人生を投げ出しているような主人公を好演している。元AKB48の米沢瑠美がデリヘル嬢役で出演しているのが話題になっているようだが、この役は残念ながらあまり印象に残らない。

 映画としての欠点は、伝説のキックボクサー新崎にあまり魅力が感じられないことだ。演じている小林聡の演技が硬いのは仕方ないが、工夫次第ではその固さを映画の中でキャラクター造形に生かす方法があったのではないだろうか。例えば新崎をほとんどしゃべらない男にするなど、小林聡の演技力不足をカバーする何かしらの工夫はあってもよかったと思う。芝居の要素を徹底的に省略していくことで、映画の最後のアクションシーンが持つ雄弁さが引き立ったと思うのだ。

 映画に登場するトラはわざわざハリウッドまで撮影に出かけたそうで、じつにいい顔をしている。ただし人間とのツーショット映像があまりないのが残念。

(原題:)

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12月1日公開予定 銀座シネパトス
配給:アークエンタテインメント 宣伝:フリーマン・オフィス
2012年|1時間33分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://nanashi-movie.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:名無しの十字架(郷一郎)
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