王になった男

2013/01/16 東映第1試写室
王の影武者になった道化が理想的な王として振る舞う物語。
アメリカ映画『デーヴ』の翻案だろう。by K. Hattori

Ouninattaotoko  アイヴァン・ライトマン監督の『デーヴ』(1993)は、ケヴィン・クラインが主演した良質のコメディ映画だ。大統領とそっくりな風貌を生かして物まね芸を披露していた男が、病気で倒れた大統領の影武者として、本物の大統領以上に大統領らしく振る舞い始めるという物語。映画『王になった男』は『デーヴ』の翻案だと表記されているわけではないが、『デーヴ』を観たことがある人なら即座に翻案だとわかる内容だ。ただし『デーヴ』は明るく楽しくカラリと乾いたコメディで、『王になった男』は少し悲劇的な色合いが強くなっている。これはアメリカと韓国の国民性の違いかもしれないし、『デーヴ』の正式な翻案作品ではないことから少し別の方向にドラマを展開させたのかもしれないし、民主国家である現代アメリカの物語を朝鮮王朝の物語にしたことで生じた変化かもしれない。いずれにせよ下敷きになっているのが『デーヴ』であることは誰の目にも明らかだが、完成した映画の印象はだいぶ違ったものになっている。(なお『デーヴ』との類似については韓国でも話題になったようだが、製作者側の言い分としては「たまたまの偶然」ということらしい。そんなわけないのにねぇ……。)

 17世紀の朝鮮。暗殺の危機におびえる朝鮮王朝15代目の王・光海(クァンヘ)は、自らの身を守るため影武者となる男を探した。白羽の矢が立ったのは王の物まね芸をしている道化師のハソン。だが影武者を宮中に入れる前に王は政敵から毒を盛られて意識不明となり、王の秘書官は急遽ハソンを呼び出して王の代役とする。宮廷は隙あらば王に反旗を翻そうとする勢力が多数派となっており、王が倒れたとなれば彼らに政治の実権を握られることが目に見えていたからだ。王が回復するまで、影武者を使って王の不在を隠し通さなければならない。突然王の役目を担わされたハソンは当初秘書官に言われるままに政務を行っていたが、宮廷内の政治的混乱や非人間的な駆け引きを見て、そこに果敢に切り込んでいくことになる。はじめはハソンの独断に怒り心頭だった秘書官も、やがてハソンの人柄や行動力に一目置くようになったのだが……。

 物語はほとんど宮廷内部だけで進行していくのだが、衣装やセットが豪華で、王の政務の様子や儀式などもしっかり再現されているように見える。王の食事を世話する女官たちや、王の身辺を世話する宦官、王の身を守る警備係など、それぞれの役職に応じて人物がきびきびと動いていく。こうした外見的なリアリズムが、道化が王の影武者になるという荒唐無稽な物語にリアリティを生み出しているのだろう。重厚な歴史劇でありながら、下敷きになっているのはコメディ映画の『デーヴ』だから、随所にコミカルな場面が散りばめられている。たっぷり笑わせて、ハラハラさせて、少しホロリとさせる展開。映画を観終えた後の満足度は高い。

(英題:Masquerade)

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2月16日公開予定 新宿バルト9、丸の内ルーブル、渋谷東急
配給:CJ Entertainment 宣伝協力:ブレイントラスト
宣伝:グアパ・グアポ、マンハッタンピープル
2012年|2時間11分|韓国|カラー|シネスコ|5.1chサラウンド
関連ホームページ:http://becameking.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:王になった男
関連DVD:デーヴ(1993)
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