ロバート・ゼメキス監督が2000年の『キャスト・アウェイ』以来12年ぶりに撮った実写作品。彼はこの10年ほど、『ポーラー・エクスプレス』(04)、『ベオウルフ/呪われし勇者』(07)、『Disney's クリスマス・キャロル』(09)などモーション・キャプチャを利用したアニメ作品に夢中になっていたわけだが、ゼメキスと言えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(1985〜1990)を撮り、『フォレスト・ガンプ』(1994)でアカデミー賞も受賞している大物監督。今回こうして、大人向けの実写作品に戻って来てくれたのは嬉しい限りではないか。
102人の乗員乗客を乗せて悪天候のオーランドを飛び立ったジェット旅客機が、着陸態勢に入ろうとする直前に事故を起こして制御不能となる。機長のウィトカーは超人的な飛行技術で機体を安定させ、アトランタ近郊の草原に不時着させる。だが旅客機の胴体部は大きくひき裂かれ、6人の犠牲者が出てしまった。病院で目を覚ましたウィトカーは奇跡的に軽傷で済んだが、採取された血液サンプルから高濃度のアルコールが検出されたことで、自己の責任を追及される立場になる。飲酒と事故の因果関係が問われれば、ウィトカーは過失致死で終身刑になる可能性が高い。パイロット組合と弁護士は、彼が飲酒していた事実を巧妙に隠蔽しようとするのだが……。
予告編やタイトルから航空機事故の映画だと思っていると、その予想は少しはぐらかされる。事故は確かに起こるが、それが映画の中心になっているわけではない。弁護士が登場するので異色の法廷もののような展開になるのかと予想すると、それもまた外れてしまう。法廷にあたる聴聞会の場面はごく短くまとめられ、罪状や容疑を巡る丁々発止のやりとりはまったく見られない。ではこの映画は何なのか? これはアルコール依存症についての物語だ。アルコール依存症に象徴される、人間の「弱さ」についての物語だと言ってもいい。
主人公は優秀なパイロットで、人柄もいいし、仲間たちからも慕われ信頼されている。だが酒だけが彼の弱点だ。彼は常に飲んでいる。仕事前にも飲む。なんと仕事中にも飲む。酔いをごまかすために、大量のコカインも併用している。彼はアルコール依存症なのだが、自分では決してそのことを認めない。仕事も問題なくこなしているし、人間関係だって良好だ。このことで誰にも迷惑をかけていない。妻や子供とは酒が原因で別れたが、それは元妻が大げさに騒ぎすぎなのだ。万事快調。何も問題なし。主人公はそうやって、自分をごまかし続けてきた。しかし事故で親しい人を失った喪失感と、聴聞会に呼び出されたことによる重圧が、彼をますます酒浸りの生活にのめり込ませていくことになる。
自らの弱さを認めた者こそが強くなれる。そんな人間の逆説が、この映画から得られる教訓だろうか。
(原題:Flight)
関連商品:商品タイトル
|