ガレキとラジオ

2013/02/25 京橋テアトル試写室
震災直後に誕生した南三陸町の町営ミニFM局「FMみなさん」。
その1年にも満たない歴史を記録。by K. Hattori

13022503  東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町。そこで被災直後の2011年5月から、防災無線の代わりに地域の災害情報を発信しはじめたのが、地域FM局「FMみなさん」だった。放送局は避難所である体育館の廊下の一角。あり合わせの機材を慣れない手つきで操作し、おぼつかない口調で原稿を読み上げるスタッフは、全員が期間限定で町に雇われた被災者たちだ。この映画はそんな小さな放送局の1年にも満たない活動を、スタッフたちに密着して取材したドキュメンタリー映画だ。

 監督はCMディレクターの梅村太郎と、テレビ番組の構成作家をしている塚原一成。ナレーターに役所広司を起用し、主題歌の「トビラ」をMONKEY MAJIKが歌っている。役所広司の語りは津波でさらわれ命を落とした無名の被災者の視点を借りて、破壊された故郷の姿と、そこで生活を再建して行こうとする人々の奮闘、それを支えるように流れる「FMみなさん」の声を紹介して行く。この映画は「記録」としては物足りない作品なのだが、映画の中心にこうした「虚構」を織り込むことで、作品としての強いまとまりを作り出すことにとりあえず成功している。いろいろな制約があって、映像素材があまりないのだ。その中でそれなりに作品を成立させてしまう、作り手たちの語りには感服するしかない。

 立ち上げたばかりのFM局とそのスタッフたちを紹介しながら、映画はその中核となる最年長の男性スタッフに寄り添っていく。よちよち歩きのミニFM局は彼中心にまとまっていたのだが、映画からは突然彼の姿が消えてしまう。やがて彼は再びFM局の仕事に戻ってくるのだが、この映画が物足りないのはそのあたりの事情を本人の言葉で語らせずに、ナレーションで処理してしまうことだ。ナレーションにした内容は、彼自身がスタッフに語った内容なのだと思う。でもこれは彼自身にそれを語らせ、他のスタッフがそれをどう受け止めるかまで映像として取材して映画の中に織り込んでほしかった。この映画はこの場面で「虚構」である役所広司のナレーションが主になり、本来の主役であるはずの現場映像が、ナレーションを絵解きする脇役になってしまった。

 映画の山場はFM局主催で開かれた「出発式」の企画と準備、当日の大盛況ぶりを取材した部分。この式は町民たちを励まし勇気づける新たな門出のイベントであると同時に、もう間もなく解散してしまうFM局スタッフたちにとっても区切りとなるイベントだ。だから本当ならこの後、映画は「FMみなさん」の最後の1日を丁寧に取材して、その後のスタッフたちの声もインタビューで拾って、全体の締めくくりにすべきだったと思う。映画はそのへんがちょっと手薄になっているのが残念。どれも無い物ねだりではあるのだけれど……。

 映画の出演したFM局スタッフたちのその後が気になる。それらを取材した、この映画の続編が観てみたい。

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4月13日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷
5月公開予定 テアトル梅田
配給・宣伝:アルゴ・ピクチャーズ
2012年|1時間10分|日本|カラー|ビスタサイズ(16:9)|ステレオド
関連ホームページ:http://www.311movie.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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