愛さえあれば

2013/04/03 アスミック・エース試写室
子供の結婚式で出会った中年男女の恋は実るのか?
これはヒロインの視点で見るべし。by K. Hattori

13040301  デンマークに住む美容師のイーダは、来週に迫った娘の結婚式を前に、長く辛い乳がん治療がようやく一段落したことにホッとしている。だが自宅に戻ってみれば、夫は若い女と浮気の真っ最中。ショックで茫然とする彼女に、夫は「お前が病気になって寂しかったんだ」と、まるで彼女の方に責任があるかのような言葉を残して出て行ってしまう。だが娘の結婚式をすっぽかすわけには行かない。式場は新郎の父フィリップが所有するイタリア南部ソレントの別荘だが、空港の駐車場で偶然出会ったのが当のフィリップだった。ふたりは同じ飛行機でソレントに到着。だが招待客が続々集まってくる頃になって、イーダの夫が愛人同伴でやってきたことから雲行きが怪しくなってくる……。

 『未来を生きる君たちへ』のスサンネ・ビア監督による、大人の男女のラブ・コメディ。主演は元007俳優のピアース・ブロスナンと、『未来を生きる君たちへ』にも出演したトリーネ・ディアホルム。イーダ役のディアホルムはガン治療を終えたばかりのヒロインを演じるため、頭髪を完全に剃り落として全編ウィグ装着状態。しかも全裸のシーン(ラブシーンではない)もあるなど大変ながんばりだ。映画はデンマーク語と英語のちゃんぽんに、イタリア語が少し混じる。ブロスナンが南イタリアの別荘で子供の結婚式に出席するとなると、絵柄としては『マンマ・ミーア!』みたいな雰囲気になってしまうわけだが(あちらはギリシャだが)、こちらの映画はコメディと言っても内容はかなり辛辣でシリアス。基本的には「長年連れ添った夫婦が別れる話」だし、「病気の再発を恐れる中年女性の物語」なのだ。

 映画の観客というのは、自分のよく見知っている人を中心に映画を観てしまう。この映画の場合、見知っている顔はブロスナンだから、僕は彼の視点で物語を追いかけて行った。この映画ではフィリップにもイーダにも均等にエピソードが振り分けられていて、どちらの視点で映画を観ても構わないようになっているのだ。しかしこの映画を最後まで見た上で考えると、この映画は最初からイーダの視点で観るのが正解だと思う。フィリップはハンサムな独身でお金持ちだし、映画に登場した最初のうちは性格のきつい嫌なやつにも見えるが、徐々にそうしたトゲが取れて、下に隠されていた優しく繊細な性格が見えてくるようになる。そんな最高の男が好意を寄せてくれれば、女性は心惹かれて当然だと思うのだ。

 しかしフィリップの視点から観て、イーダはどんな女性だろうか。あいにく僕にはその魅力がよくわからなかった。理由としては「イーダがヒロインだから」という事情が最大のもので、他の個々の性格付けやエピソードには、フィリップを引き付けるだけの強い材料はなかいように思う。ついでに言えば、フィリップがイーダと正反対だと言うベネディクテも、フィリップが言うほどにはひどい人には見えないような……。

(原題:Den skaldede frisor)

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5月17日公開予定 TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館
配給:ロングライド 宣伝:クラシック、PALETTE
2012年|1時間56分|デンマーク|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
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