ウィ・アンド・アイ

2013/04/03 シネマート六本木(スクリーン3)
まるで高校生たちが乗り合わせたバスに同乗した気分。
監督はミシェル・ゴンドリー。by K. Hattori

13040302  『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリーが、ハリウッド製のヒーローアクション映画『グリーン・ホーネット』に続いて撮った低予算のインディーズ映画。物語の舞台はニューヨークのブロンクス。高校での1年最後の日。明日から夏休みだという開放感もあっていつも以上にはしゃぐ高校生たちが、学校を飛び出して帰宅のための路線バスに乗り込んでくる。車内は高校生でギッシリ。座席には他の一般客も乗っているが、高校生たちはそんなことお構いなしに、まるで修学旅行の貸し切りバスか何かのように我が物顔に騒ぎ回る。顔をしかめる乗客たち。だがバスが停留所に停車するたびに、高校生たちは一人二人と次々に下車していく。騒々しかった車内は、少しずつ落ち着きを取り戻す。そこで少しずつ明らかになる、高校生たちの抱えた問題。それぞれの胸の内。そこからは少し前の騒々しさからは思いもよらない、繊細な思春期の少年少女たちの素顔が見えてくる……。

 映画の構成や仕掛けの意図はわかりやすく、映画を観終わった後の印象も悪くない。しかし映画導入部にある高校生たちの描写があまりに騒々しく乱暴で、ここでだいぶ疲れ果ててしまった。ここにあるのは、高校生たちによる「周囲の拒絶」だ。自分と仲間たちだけの世界があって、それ以外の存在を決して認めない。言葉も態度もすべて上から目線で、仲間以外はすべて中傷と非難とイタズラとからかいの対象。ここには他者に対する敬意も遠慮も何もない。自分たちは王様とその側近で、それ以外は価値のない連中なのだ。しかもそうした王様がバスの中に何人もいるのだから始末に負えない。

 しかし映画を観ていてすぐに気付くのは、こうした周囲への攻撃的態度は、彼らが持ち合わせている性格に根ざしているものではない。彼らは仲間とつるむ中で、自分自身を鼓舞し、仲間内での自分の存在を誇示するために、必要以上に乱暴に振る舞っている。バスの中で老婆をからかい悪態をついていた少年が、バスを降りた途端にその老婆から逆襲されて逃げ回る場面のおかしさ。さっきまでの強がりはどこへ行ってしまったのやら。おそらくバスを降りた時に見せる弱い姿こそが、この少年の素顔に近いのだろう。映画を気をつけてみていると、ひどく乱暴な少年がそのしばらく後にはおびえたような顔をしている場面があったりする。少年少女たちの粗暴な態度は、自分自身を守るヨロイのようなものなのだ。

 バスから人が少しずつ減って行くにつれて、高校生たちは自分の着た重いヨロイを下ろしていく。ヨロイの下から現れるのは、繊細で傷つきやすい十代の少年少女たち。どんなに強がり周囲に自分のタフさを誇示していても、中身は思春期の「こども」なのだ。映画を観ていてようやく彼らの本当の姿に出会えたと思った次の瞬間、映画は静かに幕を閉じる。だが同じような青春ドラマが、今日もまた世界中で繰り広げられているはずだ。

(原題:The We and the I)

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4月27日公開予定 シアター・イメージフォーラム、シネ・リーブル梅田
配給:熱帯美術館 宣伝協力:グアパ・グアポ
2012年|1時間43分|アメリカ|カラー|ビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.weandi.jp
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