インポッシブル

2013/05/17 シネマート六本木(スクリーン2)
2004年にスマトラ沖大地震の津波を生き延びた家族の実話。
津波の場面は見ていて胸が苦しくなる。by K. Hattori

13051701  2011年3月11日の東日本大震災とその後の津波被害を、日本人は決して忘れることがないだろう。だがそれより多くの人たちにとって津波と固く結びついた日とされるのは、2004年12月26日のスマトラ沖地震で引き起こされた大津波だ。これはインド洋沿岸地域に甚大な被害をもたらし、およそ30万人もの死者行方不明者を出したと言われている。この地域は観光地やリゾート地も多かったため、大勢の外国人観光客も波にさらわれ命を落とした。この映画はスペインから観光でタイのリゾートホテルに滞在していた一家が、津波に呑まれながらも奇跡的に全員生還した実話を映画化したものだ。英語作品にするため主人公一家がイギリス人に変更されているが、出てくるエピソードはほとんどが実際にあったもので、映画的な脚色などはほとんどないという。映画が現実と大きく異なっているのは、被災地に存在した凄惨でむごたらしい風景が、観客にショックを与えぬよう相当マイルドになっていることらしい。

 クリスマス休暇を利用してタイのリゾートホテルにやって来たベネット夫妻と3人の子供たち。楽しいクリスマスを終えた翌日の12月26日、ホテルのプールで遊んでいた一家を突然大津波が襲った。母マリアは長男のルーカスと水に流されるが、なんとか高い木の上に避難することに成功する。だがマリアの右足の肉は大きくひき裂かれ、激痛と出血で歩くこともできない。生き残った現地の人たちに病院に運ばれたマリアは、治療らしい治療も受けられないまま瀕死の状態でベッドに横たわっている。おそらく夫と下の子供たちは死んでしまったに違いない。マリアとルーカスはそう考えていた。だが同じ頃、瓦礫の山になったホテルには夫のヘンリーとまだ幼い子供たちがいた。ヘンリーは行方不明になっているマリアとルーカスを探すためホテルの周囲を探し回るが、見つかるのは集められた遺体の中に家族の姿はない。彼は2人の子供を避難地に向かうバスに乗せると、たったひとりであちこちの遺体安置所、避難所、病院などを探し回るのだった。

 この映画は2004年にタイで起きた出来事を描いているが、映画を観ればどうしたって2011年3月の津波と重ね合わせてしまう。津波の場面は観ていて息苦しくなるほどだ。大災害の中で浮かび上がってくる人間同士の絆の尊さ。ヘンリーが見ず知らずの被災者から携帯電話を借り、イギリスの父に電話をする場面には胸が熱くなる。打ちひしがれてペシャンコにされている時だからこそ、人は支え合って強くなれるのだ。

 映画の最後は家族の再会と被災地からの脱出で終わる。だがこれはハッピーエンドというわけではない。命が助かった人たちの周囲には、命を失った大勢の人たちがいるからだ。命を得たのも、それを失ったのも、まったくの偶然だ。助かった人たちは死んだ人たちの命の重みを引き受けながら、これから先の人生を生きていくことになるだろう。

(原題:Lo imposible)

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6月14日公開予定 TOHOシネマズシャンテほか
配給:プレシディオ 宣伝:アニープラネット、デジタルプラス
2012年|1時間55分|スペイン|カラー|スコープサイズ|5.1ch
関連ホームページ:http://gacchi.jp/movies/impossible/
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