野いちご

2013/06/27 京橋テアトル試写室
イングマール・ベルイマンが1957年に監督した作品。
テーマはひとりの老医師の心の旅だ。by K. Hattori

13062901  イングマール・ベルイマンが中世を舞台にした『第七の封印』の翌年に撮った現代劇。現代劇と言っても、製作された1957年の視点での現代だから、2013年の視点から見れば半世紀以上も昔の話だ。映画はヴィクトル・シェーストレム扮する老医師イーサク・ボイルが、ルンドの大学で名誉教授の表彰を受けるという話で始まる。ルンドまでは飛行機で行くことになっていたが、イーサクは出発前夜に不気味な夢を見て目を覚まし、車を使って出かけることにする。旅に同行するのは、息子の妻マリアン。彼女はルンドに住む息子としばらく別居していたが、この機会に再び夫のもとに戻る気になったらしい。イーサクは途中、若い頃に何度も家族と一緒に夏を過ごした家を訪ねる。そこに現れたのは、若き日の彼の婚約者サーラだった……。

 本来はモノクロ・スタンダード画面の映画だが、デジタルリマスター版ということでオープニングの配給会社のロゴなどはビスタサイズ(あるいは16:9のHDサイズと言うべきか)で表示される。その後もスクリーンの幕はビスタサイズのまま固定で、結果として映写中はスタンダードサイズの画面の両脇に、何も写らない黒い部分がずっと付いて回る。ところがこの「何も写らない黒い部分」は、実際には映写機の光を少し拾っているため真っ黒にはならず、シーンによっては本来のスタンダード画面がきちんと区切られずに、その外側にも薄ぼんやりと光が漏れているような状態になってしまうのだ。これはオープニング部分の映写が多少不格好になっても、本編については左右の黒いカーテンを画面サイズにまで引いておいてほしかった。そもそもこれは最初のロゴ部分を、本編と同じスタンダードサイズで作っておけばよかったのだ。そうしないばかりに、映画は何となく間の抜けた画面になってしまった。これはこの日続けて観た『第七の封印』や『処女の泉』にも言えることだ。DVDやBlu-rayになってしまえば気にならないのだろうが(テレビに映写幕をトリミングするカーテンなんてないしね)、映画館で観る映画としてはちょっと難ありなのだ。

 映画の内容自体は素晴らしいと思う。映画冒頭の書斎のシーンから、美術にすごく手間をかけている。この時代をまったく知らなくても、過去のシーンになれば「これは過去だ」とわかるのは、美術スタッフがしっかりした仕事をしているからだ。主人公の母親が暮らす家の、豪華ではあるが古めかしくて冷たい雰囲気。青春時代の回想シーンに出てくる、大家族が暮らす家の温かみはあってもどこか窮屈な雰囲気などもいい。これは旅の映画だ。主人公が車で旅をする物語であり、主人公が現在と過去と幻想の間を、自由自在に行き来する心の旅の物語でもある。移動の途中でさまざまな人と事件に出会うロードムービーだが、単に空間を移動するだけでなく、主人公が時間の中を移動していくのが面白い。

(原題:Smultronstallet)

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7月20日公開予定 ユーロスペース
配給:マジックアワー
1957年|1時間32分|スウェーデン|モノクロ|スタンダード|モノラル
関連ホームページ:http://www.bergman.jp/3/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:野いちご
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