股旅三人やくざ

2013/07/09 新文芸坐
沢島忠監督が3人の渡世人をオムニバス形式で描く。
東映時代劇の末期に作られた異色作。by K. Hattori

13070901  昭和40年の東映作品。新文芸坐の仲代達矢特集で上映された作品だが、仲代が出演しているのは3話オムニバスの第1話のみ。その第1話はシリアスな悲劇だが、第2話はほぼひとつのセットとその周辺だけで展開する舞台劇のような作品、第3話はコメディタッチと、それぞれのエピソードに異なった趣向が凝らされているのがいい。こうしたオムニバス映画はエピソードごとに出来不出来のばらつきがあるものだが、この映画はどの話も良くできていて面白い。いい脚本があって、いい監督がいて、いい役者をあてて、美術や撮影などのスタッフもいい仕事をしている。東映時代劇全盛時代とはこうしたものだったかと思わせる、素晴らしい映画だった。

 映画は各エピソードごとに3つの季節をあてている。第1話が秋、第2話が冬、そして第3話が春だ。ネットでこの映画の資料を見ると第1話が春だと書かれているが、これは季節が夏の盛りを過ぎた秋から始まり、凍てつく冬を過ぎて、最後は草木が芽吹いて花を咲かせる春で終わらなければならない。第1話の脚本は笠原和夫、第2話が中島貞夫、第3話が野上龍雄で、監督は沢島忠。

 第1話はこの映画の中で一番シリアスに、リアリズムに徹して作ろうとしているエピソード。渡世人の仁義の切り方などは、おそらく調べ魔の笠原和夫が丁寧に取材したり資料を探したりして江戸時代の渡世人の生活を再現しているのだろう。だがこうした「江戸時代はこうでした」というディテールの向こう側に、男と女の情念の世界が丁寧に描かれている。顔も体も覚えていない男と駆け落ち未遂を起こし、廃船の中に閉じ込められている女郎と、その見張り役となる旅の男。やがて男はこの幸薄い女のために、自分の命を捨てることを覚悟する。感情をむき出しにする女郎と、感情を押し殺した旅人の対比。感情をほとんど見せなかった男が、最後にニヤリと笑って敵に突っ込んでいく凄味。東映時代劇に仲代達矢は異物なのだが、その異物としての存在感がここでは光っている。

 第2話は東宝から志村喬を借りてきて、イカサマ博打をなりわいとする老やくざを演じさせている。彼に突っかかっていく若いやくざが松方弘樹。雪に閉ざされた峠の茶屋が舞台で、物語はほとんどその中と周辺だけで展開する。映画ではあるが、世界としては舞台劇。主役ふたりが花道から登場して、舞台の上に茶店のセットがあって……という世界。

 第3話は中村錦之助が若いやくざを演じているが、この頃の錦之助はもうだいぶ貫禄が付いていて、役が少し小さいような気がする。これはむしろ、前エピソードの松方弘樹あたりが演じるとチンピラ風の柄と合っていただろうに。でもオムニバス映画の最後を締めくくるには、やはり錦之介が必要なのだろう。錦之介はこの翌年に『沓掛時次郎 遊侠一匹』が公開されるが、そちらは役柄とうまく合っていたと思う。

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新文芸坐「仲代達矢映画祭」で上映
配給:東映
1965年|2時間|日本|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.shin-bungeiza.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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