私が愛した大統領

2013/09/02 松竹試写室
フランクリン・ルーズベルト大統領と愛人の平穏ならざる日々。
知られざる歴史秘話の映画化。by K. Hattori

13090201  1930年代半ばのアメリカ。バブル景気に踊った1920年代の狂乱が世界恐慌という悪夢によって終わり、ヨーロッパではファシズムが台頭しつつあった。この難しい時代にアメリカの舵取りを任された大統領は、フランクリン・デラノ・ルーズベルト。物語の主人公マーガレット・スックリー、通称デイジーは、大統領の母親から電話を受ける。彼女は大統領とは遠縁の親戚にあたるのだが、大統領が激務の合間に気晴らしのおしゃべりをする相手として、ハイドパークの私邸に遊びに来て欲しいという。迎えの車に乗って、厳重な警護で守られているハイドパークの屋敷を訪れたデイジー。大統領は彼女と一緒にいる時はくつろいだ表情を見せ、自ら車を運転して彼女とドライブに興じる。やがてふたりは、男と女の関係になるのだが……。

 実話をもとにした、異色のルーズベルト伝だ。デイジーとルーズベルトの関係はかなり長期間に渡るものだったが、この映画では1939年にイギリス国王ジョージ6世がアメリカを訪問した出来事をクライマックスに、物語の時間軸を数ヶ月程度にコンパクトにまとめている。こうすることで部外者であるデイジーを案内役に仕立て、ルーズベルト周辺の人間関係を紹介していく構成はスマート。ルーズベルト大統領は難題山積の大変な時代にアメリカの最高指導者だったわけだが、映画は第二次大戦勃発直前に、アメリカがイギリスといかに友好的な関係を築き上げるかという一点だけに話題を絞っている。ルーズベルトの人柄、人心掌握術、政治手腕、当時の国際情勢などがくっきりと浮かび上がるエピソードで、数多いルーズベルトの逸話の中からこれを選び出したところに、この映画の面白さがあるのだと思う。

 監督は『ノッティングヒルの恋人』や『恋とニュースのつくり方』のロジャー・ミッシェル。メリハリの利いた娯楽映画を作ってきた監督だが、今回の映画はどういうわけか華やかさに欠けてキレがない。ヒロインのデイジーは受け身の女性で自分からは物語を引っ張って行かないし、ルーズベルトも彼女との関係について大胆に行動するわけではない。人を介して「彼の気持ちは本物よ」と言われても、それだけでは映画にならない。映画は言葉で語るものではなく、目に見える絵で語るべき芸術だからだ。

 これに比べると、ジョージ6世と妻エリザベスの物語はずっと面白い。ピクニックに出かけて国王がホットドッグを食べるべきか否か……というのがこの映画の中での最大のサスペンスになっていて、そこに至るまでの国王の心の動きが、じつにていねいに描写されているのだ。演じているサミュエル・ウェストも上手い。不安と恐怖で縮こまっていた国王が、ルーズベルトの励ましで勇気づけられ堂々とした男に変身する様子を巧みに演じている。

 知られざる歴史秘話だが、この映画は世界史の教科書の登場人物たちに、暖かい血を通わせることに成功している。

(原題:Hyde Park on Hudson)

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9月13日公開予定 TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ
配給:キノフィルムズ 宣伝:樂舎
2012年|1時間34分|イギリス|カラー|シネマスコープ|5.1ch
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