ダイアナ

2013/09/11 ギャガ試写室
ダイアナ元英国皇太子妃の物語は現代版の『ローマの休日』だった。
話は悪くないが感覚が少し古くさい。by K. Hattori

13091101  1997年8月、パリでパパラッチに追いかけ回されて交通事故死したダイアナ元英国皇太子妃の伝記映画。監督は『es[エス]』『ヒトラー 〜最後の12日間〜』のドイツ人監督オリヴァー・ヒルシュビーゲル。ダイアナは36歳で亡くなっているが、映画はその生涯の中から、彼女にとってもっとも辛く苦しかった最後の2年間を取り上げている。彼女がチャールズ皇太子と別居して3年たち、BBCテレビのインタビューに答えて夫婦関係の破綻や精神的重圧による自傷行為などを明かした頃だ。この翌年に夫婦は正式に離婚。だがそれからわずか1年で、彼女は突然世を去ってしまった。ダイアナの死についてはさまざまな陰謀説が唱えられているのだが、映画はそこにまったく触れない。この映画が描いているのは、あまりマスコミに報じられることのなかった、彼女の最後の恋愛についてだ。お相手は事故車に同乗していて死んだエジプト人の大富豪ドディ・アルファイドじゃないの? この映画は、それとは違う相手の名前を出してくる。

 この映画によれば、ダイアナにとって最後の恋のお相手は、ロンドンの病院に勤めるパキスタン人の心臓外科医ハスナット・カーンなのだという。架空の人物ではなく、もちろん実在の人物だ。ふたりは1995年頃に出会い、親交を深めていく。カーン医師がダイアナのいる宮殿を訪ねることもあれば、ダイアナがカーン医師の部屋を訪ねることもあった。ふたりは相思相愛の間柄になるが、一方は世界的な注目を集める英国のプリンセスであり、一方はパキスタンの名家の出身ながら病院の勤務医だから、社会的な立場がまるで違う。「身分」という言葉を出すのは不適当かもしれないが、たぶんこの状態を一言で表現するとしたら「身分が違う」と言うのが一番手っとり早いのだろう。ふたりの距離が近づけば近づくほど、この身分の違いがふたりの関係をぎくしゃくさせる。

 愛し合う男と女が、互いの立場の立場の違いから目の前の恋をあきらめざるを得なくなるという話は、映画の中でこれまで何度も繰り返し描かれてきた。一方がお姫さまで、もう一方が一般庶民の男性という話なら、これは『ローマの休日』だ。映画『ダイアナ』は、言ってみれば実録版『ローマの休日』なのだ。ヨーロッパ某国のプリンセスがイギリスの元皇太子妃に、アメリカ人の新聞記者がパキスタン人の心臓外科医になっているが、話の基本的な組み立ては60年前の『ローマの休日』と同じ古典的な悲恋メロドラマの筋をなぞっている。

 『ローマの休日』ならそれでも構わないのだが、この映画はどうにも中途半端だ。古典的な悲恋メロドラマの登場人物を、誰もが知る最近の人物にすれば映画が新しくなるものでもない。今この時だからこそ作れる「ダイアナ伝」を、今この時の感覚で作ってほしかったが、この映画は後者の要素がだいぶ足りなかったように思う。

(原題:Diana)

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10月18日(金)公開予定 TOHOシネマズ有楽座ほか全国ロードショー
配給:ギャガ 
2013年|1時間53分|イギリス|カラー|ビスタ|5.1chデジタル
関連ホームページ:http://diana.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連書籍:ダイアナ 最後の恋 (竹書房文庫)
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