コールド・ウォー

香港警察 二つの正義

2013/09/24 シネマート六本木(スクリーン3)
香港警察内部で起きる捜査の路線対立と権力闘争。
アクションも満載で見応えあり。by K. Hattori

13092401  香港の繁華街モンコックで爆破事件が発生した夜、5人の警官と武器を載せた警察車両が跡形もなく失踪する事件が起きた。警察には犯人と思われるグループから、身代金を要求するメッセージが届けられる。これは警察に対するあからさまな挑戦だ。折しも警察長官は海外出張中ですぐには香港に戻れず、長官代行を任されている副長官のリーはただちに香港全体に非常事態を宣言して犯人確保と人質救出に向けて動き始める。だがこれに異を唱えたのが、もうひとりの副長官ラウだ。人質となっている警官のうちひとりは、リー副長官の息子だ。事件当事者の親族が、私情をからめながら捜査の陣頭指揮を執ることは許されない。サムは捜査権限をリーから剥奪し、自らが捜査の最前線に立つことになるのだが……。

 今年春に発表された香港電影金像奨(香港のアカデミー賞)で、主要9部門を受賞した作品。警察を舞台にしたミステリー・アクションであり、警察内部の政治闘争を描いたポリティカル・サスペンスでもある作品だ。監督・脚本のリョン・ロクマンとサニー・ルクはこれがデビュー作で、当初の企画ではもっと地味な低予算映画のつもりだったという。ところが脚本に惚れ込んで参加したプロデューサーのビル・コンが、「商業的な作品にするにはアクションシーンが不可欠」と判断し、内容がだいぶスケールアップされたらしい。冒頭の夜景空撮シーンから映像はつややかでシャープ。映像がきれいすぎて、かつての香港映画にプンプン漂っていた泥臭い迫力が欠けているようにも思うのだが、それを補って余りあるのが濃密な人間同士の衝突ドラマだ。ただしこれも、胸ぐらをつかんで殴り合うような汗臭さはない。法の力とそれぞれが持つ権限を武器に、大勢の人間たちがぶつかり合って火花を散らせる。

 キャスティングも豪華で厚味がある。レオン・カーファイやアンディ・ラウのような大御所から、アーロン・クォック、チャーリー・ヤン、チン・ガーロウ、テレンス・イン、ラム・ガートンなどのベテラン陣に、エディ・ポン、アーリフ・リーなどの若手が絡んでくる。中でもレオン・カーファイは貫禄たっぷりの芝居。この映画を動かしていくのはアーロン・クォック演じるラウなのだが、リー役のカーファイが受けの芝居で物語を膨らませていく。物語の中でリー副長官が受け身に回れば回るほど、警察組織の中での彼の存在感の大きさが浮かび上がってくるというのは大御所なればこそだろうか。

 香港の警察機構の仕組みや、廉政公署(ICAC)との関係性など、香港の行政システムを巡る物語になっていることから、多少とっつきにくいところもある。香港で高く評価されて大ヒットした映画だと言うが、その面白さが日本人にダイレクトに通じるかどうかは疑問だ。少なくとも僕は1度観ただけではストーリーを追うのが精一杯で、細かなところまで映画を味わう余裕がなかった。機会があればもう1度観たいと思う。

(原題:寒戦 Cold War)

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10月26日公開予定 シネマート新宿、シネマート心斎橋
配給:ツイン 宣伝:アルシネテラン
2012年|1時間42分|香港|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://coldwar-movie.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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