恋するリベラーチェ

2013/10/01 シネマート六本木(スクリーン2)
マイケル・ダグラスが同性愛のピアニストを熱演。
演奏シーンも見応えあり。by K. Hattori

13100101  1930年代から80年代までの半世紀にわたり、生き馬の目を抜くアメリカのショウビジネス界で活躍した人気ピアニスト、リベラーチェの伝記映画。原作はリベラーチェの恋人だったスコット・ソーソンの「Behind the Candelabra(燭台の裏側で)」。映画ではマイケル・ダグラスがリベラーチェを演じ、恋人のソーソンをマット・デイモンが演じている。「なんだよ、両方とも男じゃないか!」ですって? その通り。このカップル、奥様の名前はリベラーチェ、そして旦那様の名前はスコット。ごく普通の二人はごく普通に恋をして、ごく普通に結婚しました。でもただひとつ違っていたのは、奥様は同性愛の男性だったのです……といったところなのだ。もっとも超セレブのリベラーチェだから、その生活が「ごく普通」とはとても言えないのだが、映画はひとつの恋愛ドラマとして密度の濃い内容になっている。

 リベラーチェは1987年に67歳で亡くなっているのだが、映画は彼の晩年の恋人スコットの視点を通して、1970年代後半から1980年代初頭の様子が描かれている。ふたりが出会ったのは、リベラーチェがラスベガスで行っていたショーの楽屋だった。たちまち惹かれ合うふたりは、すぐにリベラーチェの豪邸で同居生活をはじめる。スコットの名目上の身分は、リベラーチェの秘書だ。犬の訓練士をしていたスコットはリベラーチェの仕事を手伝うようになって、四六時中かたときもそばを離れない。それはとても幸福な時間だったが、やがてスコットは、自分の生活がすべてリベラーチェに拘束されていることに息苦しさを感じ始める。リベラーチェの望み通りに着飾り、ショーを手伝い、整形やダイエットまでして彼の愛情に応える。それはそれで幸せなのだが、自分のすべてがリベラーチェのものになってしまう不安感と違和感。何しろ彼には、自分ひとりの時間すらないのだ。やがてスコットはダイエットピル中毒になり、自分がリベラーチェに捨てられてしまうという強迫観念に付きまとわれるようになる……。

 ひとつの愛が芽生え、成長し、やがて崩壊して行く様子が丁寧に描かれている映画だ。主人公たちの馴れ初めから一緒に暮らし始めるあたりまでは、同性愛者ならずとも恋愛経験のある人なら、誰もが心当たりのあるエピソードになっているのではないだろうか。「一緒のベッドで寝よう。何もしないと約束するから」とリベラーチェがスコットに言うシーンでは、試写室が爆笑に包まれた。映画を御覧の皆さん方も、少なからずこの言い訳に心当たりがあるのだろう。

 マイケル・ダグラスが好演している。演奏シーンはいかにもそれらしい仕草で、映画を観ていると本物のショーを見ているような昂揚した気分が味わえる。特殊メイクを使った顔芸もすごい。だが一番心を動かされるのは、やはり愛が壊れていく際に見せる彼の複雑な表情だろう。

(原題:Behind the Candelabra)

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11月1日(金)公開予定 新宿ピカデリー
配給・宣伝:東北新社 宣伝:フリーマン・オフィス
2013年|1時間58分|アメリカ|カラー|ハイビジョン|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://liberace.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Behind The Candelabra
原作:Behind the Candelabra
関連CD:Liberace
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