映画ドキドキ!プリキュア

マナ結婚!!? 未来につなぐ希望のドレス!

2013/11/10 楽天地シネマズ錦糸町(シネマ3)
甘い思い出の中に閉じ込められたプリキュアの運命は。
プリキュア版『オトナ帝国の逆襲』。by K. Hattori

13111001  日曜朝の女の子向けアニメ番組「ドキドキ!プリキュア」の劇場版。町に現れた謎の男マシューの吹くクラリネットの音に乗せて、捨てられたり忘れ去られたりしていた品々が続々と空へ舞い上がる。やがてそれは巨大なクジラの姿に。人々の前に姿を現したマシューは、人間たちを次々と奇妙な光線で照らしだしては、思い出のフィルムの中に閉じ込めてしまう。そこは苦しさも悲しさもない、その人の過去の甘美な思い出だけで作られた世界だ。プリキュアたちは人々を救うため戦いを挑むが、彼女たちもまた光線に照らされて思い出のフィルムに閉じ込められてしまうのだった……。

 映画を観ているときから「これは何かに似ているな」と思ったが、これは原恵一の傑作『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』のプリキュア版なのだ。『オトナ帝国』では大人たちが子供時代の思い出に捕らえられ、子供に戻ってそこから逃れられなくなる場面があった。今回の『ドキドキ!プリキュア』では、それと同じことをプリキュアたち全員にやっている。日常生活では女子中学生であるプリキュアたちは、自分の幼かった頃、懐かしい小学生時代に戻ってその記憶を繰り返し何度も反芻する。(キュアソードはトランプ王国が健在だった幸福な過去に閉じ込められる。)六花とありすが閉じ込められた夢の中で正気を取り戻すと、自分の周囲の人たちが物言わぬマネキンに変わり果てるシーンは不気味だが、これも『オトナ帝国の逆襲』の中で、ひろしが正気を取り戻すと周囲がハリボテのミニチュアセットだった場面に通じ合う。

 『オトナ帝国の逆襲』は監督している原恵一自身が、「大人たちは幸せな過去に逃避できるなら、そこから戻ってこなくてもいいのではないか?」という主旨の発言をしていたが、それと同じことは今回の『ドキドキ!プリキュア』についても言える。プリキュアたちは幸せな過去に永遠に暮らすことができるなら、わざわざ面倒くさい現在の日常に戻ってくる必要がないんじゃないだろうか。『オトナ帝国』ではそれを「幸福な過去の思い出」を持ち得ない幼稚園児のパワーと、親子の愛情で押し破った。「おらは大人になりたいぞ!」という主人公の叫びが、大人たちのノスタルジーをぶち壊したわけだ。でも『ドキドキ!プリキュア』ではどうだろう。何が彼女たちを、辛くて苦しい現実に引き戻すのだろうか。この映画で彼女たちが現実に戻ってくるシーンは感動的にできているが、それは「主人公たちは現実に戻らなければならない。なぜなら彼女たちはプリキュアなんだから」という予定調和の上に成り立っている感動でしかないような気もするのだ。

 辛いことがあっても、悲しいことがあっても、人はそれを乗り越えて大人にならなければならない。でもその先にどんな幸せがあるんだろうか? きれいな花嫁さんになること(=結婚)ですか? なんだかなぁ……。

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10月26日(土)公開 新宿バルト9ほか
配給:東映
2013年|1時間12分|日本|カラー
関連ホームページ:http://precure-movie.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:映画 ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!?未来につなぐ希望のドレス
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