かぐや姫の物語

2013/11/23 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン2)
笑い、泣き、苛立ち、恐怖する、高畑版のかぐや姫。
水彩画風の絵に引き込まれる。by K. Hattori

13112301  今や「世界の」とうい枕詞を付けてもいいスタジオジブリだが、このアニメ制作会社は宮崎駿と高畑勲に長編アニメーション映画を作らせることを目的に設立されている。宮崎駿の活躍ぶりは今や紹介するまでもないが、一方で高畑勲はどうだったのかと言うと、これが寡作であまり作品作りがはかどらない。ジブリで最初に作ったのは『火垂るの墓』(1988)だが、その後は『おもひでぽろぽろ』(1991)があり、『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994)があり、『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999)を作ったが、その後は音沙汰なし……。モノを作る人間にとって、作られたモノが世の中に出てこない期間というのは、ある種の生死不明状態だ。そんな中で「高畑勲の新作が公開される」というのは、それだけで大きなニュースなのだ。

 原作は日本最古の物語と言われる「竹取物語」で、映画はそのストーリーラインをほとんど原作通りになぞっている。かぐや姫の幼馴染みである捨丸のエピソードはオリジナルだが、彼は自然と共に生きる貧しい人たちを象徴する人物。かぐや姫の境遇は貧しい竹取の娘から都の高貴な身分に変わるのだが、それでもなお彼女の心に残る生まれ故郷の原風景が捨丸だ。そこにロマンスの要素がないわけではないが、映画の中ではそれが強調されることはない。彼は主人公が捨てた過去の懐かしい暮らし、自然と一体化して生きる理想化された暮らしの象徴なのだ。かぐや姫と捨丸の関係は、『おもひでぽろぽろ』における都会育ちの主人公タエ子と、彼女が山形で出会う農家の青年トシオの関係のバリエーションかもしれない。

 「竹取物語」は異界からやって来た美しい姫君に、人間たちが翻弄されるという物語だった。主役は右往左往する人間たちで、かぐや姫はそうした騒動を起こすきっかけに過ぎないのだ。しかし本作『かぐや姫の物語』では、かぐや姫本人が主役になっている。映画はかぐや姫に寄り添い、彼女自身の内面をくっきりと浮かび上がらせる。養父母や周囲の人たちの善意によって、彼女は当時の社会が当然のものとしていた「幸せ」に向けて追い込まれていく。それは顔も見たことがない相手を、自分の夫として迎えること……。自分の意志と異なるところで、自分自身の「幸せ」が決められてしまう絶望的な苛立ちと恐怖。今回のかぐや姫は苛立ちと怒りに形相を変え、おびえて恐れおののくのだ。何と人間らしいかぐや姫だろうか。

 水彩画風のアニメという手法は『ホーホケキョ となりの山田くん』でも試みられていたが、今回はそれと絵の密度がまるで違う。今回の作品が水彩画風アニメの完成形だとすれば、前回の『山田くん』は習作みたいなものだ。アニメーションとしては素晴らしい出来映え。しかし「結婚という牢獄」というテーマはいささか古く、上映時間も長すぎる。これはせめて2時間を切って欲しかった。

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11月23日(祝・土)公開 TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:東宝
2013年|2時間17分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://kaguyahime-monogatari.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:かぐや姫の物語
主題歌CD:いのちの記憶(二階堂和美)
関連CD:ジブリと私とかぐや姫(二階堂和美)
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