パラダイス:愛

2013/12/13 京橋テアトル試写室
ケニアのリゾート地で出会った恋人にのめり込むヒロイン。
中年女性が追い込まれる愛の渇き。by K. Hattori

13121301  バブル時代の1989年に一世を風靡した爆風スランプのヒット曲「リゾ・ラバ -Resort Lovers-」。夏の海や冬のスキー場など、リゾート地で出会った男女が恋に落ちるが、関係はそれっきりに終わる……というありがちなシチュエーションを描いた曲だった。ここから旅先の刹那的な恋(というより行きずりのセックスのこと)を意味する「リゾラバ」という言葉が生まれたが、本作『パラダイス:愛』はそんなリゾラバの物語だ。

 この映画の主人公テレサは、50代のオーストリア人女性。休暇を取ってケニアの海岸リゾートホテルにやって来た彼女は、そこで友人のひとりから驚くべき告白を聞かされる。友人は現地で若い恋人を作り、日々お楽しみに余念がないというのだ。びっくりするテレサに彼女は言う。「あなたも同じようになるわよ。もうじき、同じになるわ」。やがてテレサは彼女の予言通り、ホテルを抜け出して若い男たちと関係を持つようになる。最初は単なる好奇心。二度目はかなり本気だ。金を出して男を買ったわけではない。男たちが彼女を口説き、彼女は彼らと恋をしたのだ。だが一度関係を持つと、彼らは何かと理由を付けてテレサに金を要求するのだった。彼女はそのたびに金を渡していたのだが……。

 かなり意地の悪い映画だ。ケニア人の男たちが金目当てであることは、映画を観ている人なら誰もがすぐわかる。だがヒロインにはそれがわからない。「お金が目当てなの?」「違います。お金なんていりません。あなたが好きなんです。あなたはとてもキレイです。魅力的です。愛してるんです」と口説かれてその気になるテレサ。だが彼らはその後「家族が病気で医者にかかる金がない」だの、「親戚が働く学校で貧しい子供たちが困っている」だのとあれこれ理由を付けて、彼女から金をせびり取っていく。映画を観ている人は全員が、この話はすべてウソだとわかる。相手の男はこれらの人たちとグルになって、彼女からありったけの金を吐き出させようとしているのだ。だが彼女自身はそれに気付かない。

 テレサは孤独なのだ。寂しいのだ。誰かに認めてもらいたいのだ。ケニアの青年たちは、その孤独や寂しさに付け込んで彼女から金を引っ張ろうとする。やがてテレサも青年たちが金目当てで自分を口説いていることに気付くが、そこで起きたのは彼らの裏切りに対する怒りであり不信感だった。彼女は自らの孤独に向き合おうとしない。それがかえって、彼女の孤独を深めていく。悪いのは「彼ら」であって「自分」ではない。多少なりともここで自分の孤独を見つめていれば、彼女は友人たちのように割り切った気持ちでケニアの男たちと付き合えたかもしれない。だがテレサはそうしない。自分を認めて受け入れてくれる男がいるに違いないという幻影にとらわれたまま、彼女はさらなる孤独へと追い詰められていく。

(原題:Paradies: Liebe)

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2014年2月22日公開予定 ユーロスペース
配給:ユーロスペース 宣伝:テレザ
2012年|2時間|オーストリア、ドイツ、フランス|カラー|1:1.85|5.1ch
関連ホームページ:http://www.paradise3.jp
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